抵抗(レジスタンス)−死刑囚の手記より−

1956年
監督 ロベール・ブレッソン 出演 フランソワ・ルテリエ、シャルル・ル・クランシュ 
(あらすじ)
1943年、ドイツ占領下のリヨン。ドイツ軍に逮捕されたレジスタンスのフォンテーヌ中尉(フランソワ・ルテリエ)は、収容されたモンリュック監獄からの脱走を決意し、コンクリートの床で研磨したスプーン一本を使って独房の扉の羽目板を外すことを試みる。作業は遅々として進まなかったものの、執念で何とかそれをやり遂げた彼は、続いて脱出用のロープや鉤の製作に取り掛かる…


ロベール・ブレッソン監督の代表作の一つとされるフランス製の脱獄映画。

長年、個人的な“見てみたい映画”リストの上位に名を連ねていた作品なのだが、2年前に見た同監督の「スリ(掏摸)(1960年)」という作品があまり口に合わなかったせいで長らく放置。U-NEXTのラインアップに上がっていなければそのままになっていたかもしれないが、そうならなかったのは幸運であり、こちらはとても面白い作品だった。

さて、上映時間の大半は脱獄を決意した主人公の様々な“作業”の描写に費やされているのだが、実話ベースということもあって派手な見せ場は皆無であり、危うく看守に見つかりそうになるといった類いのスリリングなエピソードも出てこない。しかし、コツコツと地味な作業に打ち込む主人公の姿には観客を惹きつける何か不思議な魅力があり、見ていて飽きを感じるようなことはない。

そうこうするうちに準備は完了してしまうのだが、今度はなかなか脱獄を決行しようとしないところが面白いところであり、もうただそれだけで主人公の感じている脱獄に対する不安や恐怖が手に取るように伝わってくる。勿論、脱獄に失敗すれば即刻銃殺であり、彼は独房の中で実際にその銃声を耳にした経験があるんだよね。

その後、実話なら奇跡としか思えないような面白い展開を経て、結局、主人公は脱獄に踏み切るのだが、その最中も恐怖に起因する“ためらい”の連続であり、スピーディーなアクションシーンとは真逆の演出がその場の緊張感を盛り上げる。そんな、ある意味とても危険な手法をあえて選択したブレッソン監督の勇気には、唯々賞賛の言葉しか出てこない。

ということで、過剰な演出を排することの効果をこれほど見事に見せつけられたのは嬉しい驚きだが、ハリウッドに限らず、今の映画界でこれを真似しようとしてもそう簡単に出来るとは思えない。そんな意味からも、こういった旧作を気軽に見られるネット配信のメリットはもっと高く評価されるべきであり、それ専門の映画解説者等の登場が待ち望まれるところです。