情婦マノン

1948年作品
監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 出演 ミシェル・オークレールセシル・オーブリー
(あらすじ)
第二次世界大戦が終わって間もない頃のフランス。ユダヤ人の亡命を請け負っている貨物船の船倉から男女二人の密航者が発見される。男は元レジスタンスのロベール(ミシェル・オークレール)、女はその妻のマノン(セシル・オーブリー)であり、殺人犯として新聞に顔写真が掲載されていたロベールは、船長からの質問に答える形で二人の偶然の出合いから妻の実兄を殺害するに至るまでの経緯を物語りはじめる…


1731年に刊行された小説「マノン・レスコー」をベースにした男女の愛憎劇。

二人の出合いは、市民からリンチにかけられそうになっていたマノンをレジスタンス活動に従事していたロベールが救い出したことによるのだが、マノン自身は認めていないものの、おそらく彼女はフランス国内に駐留していたドイツ兵を相手に売春婦として生計を立てていたものと思われる。

そんな彼女の尻軽ぶりは結婚してからも変ることはなく、悪事に手を染めてでも彼女をつなぎ止めておきたいと願うロベール君の思いをよそに、ついにはチンピラの実兄と共謀して金持ちのアメリカ人との結婚を画策。しかし、ギリギリのところでロベール君に対する強い愛情に気付いたマノンは全てを投げ捨てて二人だけの逃避行に旅立つ、というのが二人が船長に話した物語のあらまし。

ここまでは割と普通の映画なのだが、何故かこの話に心を動かされてしまった船長が、二人をユダヤ人たちを迎えに来たボートに乗せて自由にしてやってからの展開が物凄い。ボートが着いたのはまさにイスラエル建国寸前のパレスチナであり、ユダヤの民に混じって何処とも知れぬ目的地に向かって砂漠を歩いて行く二人の前には驚愕の結末が待っていた。

まあ、正直なところ俺にはロベール君の気持ちに共感することは到底出来ないのだが、あんなにも一人の女性を愛し続けることが出来たというのは、ある意味、とても幸せなことだったのかも知れないなあ。また作品の評価としては、マノンの亡骸を逆さまに担いで歩いて行くロベール君の後ろ姿を見せてくれただけで、もう十分傑作の名に値すると思う。

ということで、特典映像として淀川長治氏の映画解説が見られるのだが、例によって(?)そこで述べられている内容は実際の映像といくらかズレているみたい。まあ、現在のようにDVD等でいつでも好きなときに鑑賞できる環境になかった頃の話なので仕方ないのだが、むしろ彼の記憶の中で発酵し続けた妄想の中身がとても面白く、俺も次第に腐敗していく死骸を担いで砂漠をさまようロベール君の姿を見てみたくなりました。