1960年作品
監督 ジャック・ベッケル 出演 マーク・ミシェル、ジャン=ケロディ
(あらすじ)
フランスのサンテ刑務所に収容されているガスパール(マーク・ミシェル)は、8棟の修理に伴い、11棟6号室に移されるが、そこには3度の脱獄歴を有するロラン(ジャン=ケロディ)をはじめ4人の囚人が収監されていた。実は、彼等は新たな脱獄計画を予定しており、ガスパールの罪状から彼の刑期が相当長くなりそうなことを確認したうえで、彼を仲間に加えることにする….
1947年に実際に起きた脱獄事件を題材にしたジャック・ベッケルの遺作。
ガスパールの罪状は、夫婦喧嘩の最中に妻から銃を奪おうとした際、誤って彼女の肩を撃ってしまったというものであるが、その喧嘩の原因がガスパールと彼女の妹との浮気ということで、怒りの収まらない妻は彼を殺人未遂の罪で告訴。まあ、本来なら過失傷害どまりなんだろうが、状況証拠はガスパールに不利であり、6号室の面々は、殺人未遂の罪で長期の懲役刑は免れないだろうと予想する。
これ以外にも、ガスパールの浮気相手(=デビューしたてのカトリーヌ・スパーク!)が面会に来たり、囚人のうちの一人の母親が病床に臥せっているとの話題が出たりはするのだが、彼等の個人情報が明らかになるのはそこまでであり、あとは、ガスパール以外の囚人がどんな罪を犯したのかの説明も無いまま、脱獄計画の進捗状況だけが淡々と描かれていく。
脱獄計画を指導するのは、当然、経験者のロランということになるが、その方法はいたってシンプルであり、ただただ穴を掘り続けるだけ。お手製の潜望鏡や砂時計といった小道具も出てくるが、上映時間の大半はこの穴掘りシーンに費やされているような印象が(実際以上に?)強く、回想シーンもBGMも無いような状況で、連続して鳴り響くコンクリートを砕くときの不快な音だけが今でも耳に残っている。
そのロランに扮しているのは、何と1947年の脱獄事件に直接関わったという元囚人のジャン=ケロディであり、役者としてはほとんど素人同然の経歴ながら、本作で見せる存在感たっぷりの演技はちょっと驚異的。それに対し、残りの4人の囚人たちはあまり悪人には見えない人ばかりなのだが、このへんは観客が彼等に感情移入し易くしようとするジャック・ベッケルの作戦なのかもしれない。
ということで、ハリウッド製の脱獄映画であれば、鬼のような所長や看守の存在が必須であるが、このサンテ刑務所の職員は皆さんとても優しそう。しかし、ガスパールを6号室に移した件に関しては、ロラン等の脱獄計画を危惧した所長の陰謀だった可能性も否定できず、やはり油断は禁物のようです。