肉体の悪魔

1947年作品
監督 クロード・オータン=ララ 出演 ジェラール・フィリップミシュリーヌ・プレール
(あらすじ)
第一次世界大戦当時のパリ郊外。フランソワ(ジェラール・フィリップ)の通っている学校は、臨時的に一部が病院として使用されており、そこへ看護師としてマルト(ミシュリーヌ・プレール)がやってくる。負傷兵の惨状を目の当たりにして失神してしまった彼女をフランソワが介抱したことがきっかけで二人は知り合い、お互いに好意を抱くようになるが、マルトには出征中の婚約者ラコームがいた….


ラディゲの処女長編の映画化であり、ジェラール・フィリップ出世作としても有名な作品。

フランソワは日本でいえば高校生くらいの設定であり、まあ、一言でいえば“性欲の塊”みたいなお年頃。そんな少年が年上の(=とはいっても、まだまだ思慮分別に欠ける)美女に夢中になってしまい、お互いの満たされぬ肉欲から理性的な判断が出来ないままにズルズルと悲劇的な結末へと引きずり込まれてしまう、というのが元々の題名のイメージなんだろう。

ところが、本作でフランソワに扮しているのは、公開当時25歳のジェラール・フィリップということで、いくら名優とはいえ、どうしたって高校生には見えっこないのだが、実はこのことがかえって幸いしており、結果的に、この題名からは思いもよらないようなロマンチックなメロドラマ(=フランス版道行き?)に仕上がっている。

まあ、高校生という設定から、フランソワの頼りなさや経験不足を象徴するエピソードがしばしば登場するのだが、ジェラール・フィリップが演じると、これが“世間知らずの若旦那”風に見えてくるため、その場を取り繕うとするマルトの行動からは、むしろ“健気”といった雰囲気さえ漂ってくる。フランソワを本当の高校生が演じていたとしたら、おそらくマルトの“愚かさ”が強調されてしまい、決してこんな風にはならなかったと思う。

この辺りが、監督のクロード・オータン=ララの計算によるものなのか、または単なるケガの功名なのかは分からないが、川辺に立つマルトの姿をはじめ、印象的なシーンが随所に見られることから、なかなか有能な監督であったらしいことが窺える。DVDの映像が不鮮明なのがとても残念だった。

ということで、厳格そうなマルトの母親や、何とかフランソワの力になろうとする彼の父親、そして1シーンしか出番はないものの、大人の男の魅力を見せつけるラコームといった脇役陣も充実しており、なかなか見応えのある作品になっていました。