1951年作品
監督 アナトール・リトヴァク 出演 リチャード・ベースハート、オスカー・ウェルナー
(あらすじ)
第二次世界大戦末期、ドイツとの最前線に通信士官として赴任してきたレニック中尉(リチャード・ベースハート)は、配属先へと向かう途中、偶然にドイツ軍の敗残兵2名を捕虜にする。レニック中尉が配属された諜報部門では、ドイツ軍の内情を探るために捕虜の中からスパイ希望者を募っていたが、それに応募してきたのは彼が捕虜にしたドイツ兵の一人カール・マウラー(オスカー・ウェルナー)だった….
アナトール・リトヴァクの監督による戦時中の実話を基にしたスパイ映画。
レニック中尉は、タイガーとハッピー(=カールに与えられた通称)という二人の元ドイツ兵スパイと一緒にドイツに潜入することになるのだが、打算的な考えの持ち主である中年男のタイガーとは対照的に、ハッピーの方はいたって真面目な好青年。
彼がスパイになろうとした動機については、“祖国に平和と自由を回復するためには敗戦が早道”といったような趣旨の説明があるのだが、本作における彼は極めて寡黙な青年であり、おそらくスパイとしての活動には様々な葛藤もあるのだろうが、台詞や表情からはなかなか彼の心情を窺い知ることが出来ない。
まあ、本作が実話を基にしているということもあり、制作者側がストーリーを分かり易くするためだけの無用な憶測は控えたのかもしれないが、作品の最初と最後に流れる“スパイになる者の気持ちは分からない”というレニック中尉の独白は、そんな彼等の気持ちを代弁しているような気がした。
そのハッピー(=彼のキャラクターは全くこの通称にそぐわないのだが。)を演じているのは、後に「華氏451(1966年)」等で主役を演じることになるオスカー・ウェルナーであるが、本作では公開当時29歳とは思えない初々しさで医学校を卒業したばかりのような若き衛生兵役を巧みに演じており、周囲の百戦錬磨のような女性からもモテモテという展開もなかなか面白い。
ということで、アナトール・リトヴァクはロシア生まれのユダヤ人であり、ナチス台頭以前はドイツ映画界でも活躍していたらしいのだが、同じスパイ物でもフリッツ・ラングの「外套と短剣(1946年)」なんかとは随分コンセプトが異なっており、その娯楽性を抑えたストイックな制作態度にはとても感心させられました。