うたかたの恋

1935年作品
監督 アナトール・リトヴァク 出演 シャルル・ボワイエダニエル・ダリュー
(あらすじ)
19世紀末のウィーン。皇太子のルドルフ大公(シャルル・ボワイエ)は、政略結婚で結ばれた妻との結婚生活も上手く行かず、王室での窮屈な暮らしに生きる望みを失いかけていた。そんなとき、ふとしたことで一人の美しい少女と出会い、お互い名前も名乗らぬままに楽しい一時を過ごすが、後日、オペラの劇場で再会した彼女は男爵家の末娘マリー(ダニエル・ダリュー)だった….


1889年に起きたオーストリアのルドルフ大公とマリー・ヴェッツェラの情死事件の映画化。

実際の情死事件には色々と不明な点も多く、実はルドルフは暗殺されたのだという説まであるらしいのだが、本作ではこの二人が封建的な社会制度の犠牲になった“悲劇の恋人たち”に仕立て上げられており、正に典型的なメロドラマになっている。

当時とすれば皇太子に愛人の一人や二人いるのは特に珍しくも無かっただろうし、本作においても、ルドルフはマリーと出会う前に沢山の女性とお付き合いをしていたという設定。従って、マリーのこともそんな愛人の一人として遇していれば、こんな悲劇的な結末は避けられたような気もするのだが、まあ、それではメロドラマにならないのだろう。

ウィーンが舞台ということで、ほとんどの場面で様々な音楽がBGMとして効果的に使われている他、ルドルフの乱痴気騒ぎにおける大胆な演出や時折登場する二人組みの刑事によるコミカルな掛け合いといった具合に、アナトール・リトヴァクの細やかな配慮の行き届いた演出はなかなか見事であり、比較的単純なストーリーを巧みに盛り上げている。

そして、本作の最大の魅力は、何と言ってもこれが出世作となる名花ダニエル・ダリューの美しさであり、いや〜本当にフランス人形みたい。あの大きく見開かれた、ほとんど瞬きをしないような瞳は、マリーの健気なまでの一途さを何よりも雄弁に物語っており、確かにあの瞳でじっと見つめられれば、単なる愛人以上の特別な人として遇さなければという気になってしまうのかもしれない。

ということで、死を決意した二人が初めて公衆の面前で自分たちの関係を誇示するが如きあの舞踏会のシーンは、実に美しくも悲しい本作のクライマックスシーンであり、数多いメロドラマの中でもいつまでも記憶に残る出色の名シーンと言えるでしょう。