黒蘭の女

1938年作品
監督 ウィリアム・ワイラー 出演 ベティ・デイヴィスヘンリー・フォンダ
(あらすじ)
1852年のニューオリンズ。裕福な叔母夫婦に育てられたジュリー(ベティ・デイヴィス)は、美人で気の強いわがまま娘。相思相愛の相手である北部出身の青年銀行家ブレストン(ヘンリー・フォンダ)を買い物に誘ったものの、仕事で手が離せないからと断られてしまった彼女は、その意趣返しとして、彼と一緒に出かける予定の舞踏会用に、未婚の女性にはタブーとされる真っ赤なドレスを購入するが….


ベティ・デイヴィスウィリアム・ワイラーと組んだ最初の作品。

真面目なブレストンは、結局、ジュリーの気まぐれを許すことが出来ず、同じ北部出身の聡明な女性エミイとさっさと結婚してしまう。一方、どうしてもブレストンのことを諦めきれないジュリーは、彼女の取巻きの一人である南部男のバックをそそのかしてブレストンの気を惹こうと画策するっていうストーリーは、本作の翌年に公開された「風と共に去りぬ(1939年)」と確かによく似ている。

舞台になるのが南北戦争1861年〜1865年)前夜のアメリカ南部というのも両作品に共通している点なのだが、本作で彼女等を苦しめるのが、南北戦争ではなくて黄熱病の大流行というあたりがなかなか興味深く、アメリカ南部では大勢の黒人奴隷と一緒にアフリカ原産の感染症まで“輸入”していたんだねえ。

原題は「Jezebel」であり、これは旧約聖書に登場する古代イスラエルの王妃の名前とのこと。ヨハネの黙示録では、イエスは“かの女イゼベル”と呼んだ女性のことを、“見よ、わたしは彼女を病の床に投げ込む。また、彼女と姦淫を犯している者たちが彼女の行ないについて悔い改めないなら、その者たちを大患難に投げ込む”と痛烈に罵倒しており、キリスト教文化圏においては希代の毒婦を意味する名前らしい。

本作では、悔い改めたジュリーが、黄熱病に感染してしまったブレストンを看病するために自ら進んで“大患難”の地へと向かうところで終わってしまうのだが、彼女の名誉のためにも、その後の大患難との奮闘ぶりについても見てみたかったような気もする。

ということで、本作で2度目のアカデミー主演女優賞に輝いたベティ・デイヴィスの熱演は素晴らしいのだが、それに比べて残りの3人の印象が相当弱いのがとても残念。特にブレストン役のヘンリー・フォンダは明らかな配役ミスであり、ここはモンゴメリー・クリフト級の美青年を起用すべきだったでしょう。