ラインの監視

1943年作品
監督 ハーマン・シュムリン 出演 ベティ・デイヴィスポール・ルーカス
(あらすじ)
ファレリィ家では、18年振りに娘のサラ(ベティ・デイヴィス)がヨーロッパから帰国してくるということで、女主人のファニィ以下その準備に大忙し。そんなところへサラがドイツ人技師の夫クルト(ポール・ルーカス)と3人の子供を伴って帰って来るが、再会を懐かしむのも束の間、ファレリィ家に滞在していたルーマニア人のブランコヴィス伯爵がクルトの正体に疑いを持つ….


ナチス運動を題材としたリリアン・ヘルマンの戯曲の映画化。

実は、サラの夫クルトは反ナチス運動のリーダー的存在であり、戦闘で傷ついた体をしばらく休めるためにサラの実家を訪れたという設定。しかし、安全と思われたファレリィ家には運悪くドイツ大使館にコネを持つブランコヴィス伯爵が滞在しており、金に困っていた彼はクルトに関する情報をナチスに売りつけることを思い付く。

原題は「Watch on the Rhine」であり、“ラインによる監視”ではなく、“ラインを監視せよ”という意味。ヘルマン原作の戯曲がニューヨークで初演されたのが1941年ということで、ナチスの動きに脅威を覚えた彼女がアメリカ国民に向けてヨーロッパで行われている戦争への参加を呼びかけるという意図があったのだろう。

そのため、本作に当時の典型的アメリカ人として登場するファレリィ家の人々は、ヨーロッパ帰りのサラを除き、“平和ボケのお人好し”風に描かれているのが大変興味深く、終盤になってブランコヴィス伯爵がその本性を現すことにより、ようやく自分たちが深刻な状況に陥っていることに気付く。

登場人物の中でもドイツ人のクルトが一番格好良い役であり、彼を演じたポール・ルーカスは本作でアカデミー主演男優賞を受賞しているらしい。しかし、今改めて見てみると少々気の弱そうなところが演技の端々から垣間見えてしまい、個人的にはあまり反ナチス運動の闘士らしくなかったように思えるのだがどうだろう。

ということで、もう一方の主役であるサラに扮したベティ・デイヴィスの美しさはちょっと衝撃的であり、今まで彼女には“性格俳優”的なイメージを抱いていたのだが、本作におけるストレートな良妻賢母ぶりは尋常ではないくらいに素晴らしい。一人の美人女優としてすっかり見直してしまいました。