アイアン・スカイ

2012年作品
監督 ティモ・ヴオレンソラ 出演 ユリア・ディーツェクリストファー・カービイ
(あらすじ)
2018年の近未来。アメリカ大統領選挙のためのキャンペーンの一環として46年ぶりに月面へ送り込まれた黒人モデルのワシントン(クリストファー・カービイ)。しかし、月の裏側で彼が見たのは、ナチスの残党によって築かれた第四帝国の秘密基地であり、彼等に捕らえられ、“白人化”されたワシントンは、ある目的のために月面親衛隊准将のクラウスに連れられて地球へと舞い戻る….


ネットを利用して行った製作資金の募金活動が話題になったフィンランド、ドイツ&オーストラリア製作のおバカSF映画

月の裏側のため、地球からの電波が届かないことがネックになったのか、ナチス第四帝国の面々は現代の地球の文化や科学に関する情報を全くご存じないらしく、そんな彼等のアナクロニズムが本作最大の笑いどころ。いまだに“アーリア人至上主義”を信奉していたり、円盤型宇宙船を開発する技術力を有しながらスマートフォンの存在を知らなかったりするあたりがなかなか笑わせる。

しかし、フィンランド人作家の手になる本作原案の巧みなところは、その返す刃で現在の国際政治の状況をもバッサリと切り捨てているところであり、おそらく一番コケにされているのは、サラ・ペイリンアラスカ州知事をモデルにした女性大統領を擁するアメリカ合衆国政府。クラウス准将の主張するアーリア人至上主義が、そのまま共和党の選挙スローガンとして通用してしまうというギャグは秀逸だった。

製作資金をカンパに頼っているということで、相当チープで笑える映像を期待(?)していたのだが、まあ、ハリウッド映画に比べればかなり見劣りするものの、それなりの水準は維持しており、第四帝国の飛行船型宇宙空母とナンチャッテ地球連合軍の宇宙戦艦とによる戦闘シーンもなかなかの迫力。邦画だったら“SF大作”というキャッチフレーズが付いてしまっていたかもしれない。

ということで、製作国として名を連ねているのが、フィンランドとドイツという第二次世界大戦の敗戦国に白豪主義で有名なオーストラリアという組合せが非常に興味深く、自らが犯した過去の罪を素直に認めた上で、現在の問題を批判しようとする態度は誠に潔い。続編の計画もあるらしいが、それに参加しようという勇気ある映画人は我が国には存在しないと思います。