モン・パリ

1973年作品
監督 ジャック・ドゥミ 出演 カトリーヌ・ドヌーヴマルチェロ・マストロヤンニ
(あらすじ)
パリ市内で友人と自動車教習所を経営しているマルコ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、最近、何故か気分がすぐれず、同棲中のイレーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)や息子のルカと一緒に行ったミレーユ・マチューのコンサートも途中で抜け出してしまう始末。翌日、心配したイレーヌの勧めで診療所を受診した彼は、そこで妊娠の疑いがあることを告げられ、産婦人科の専門医を紹介される….


ジャック・ドゥミカトリーヌ・ドヌーヴの名コンビによるコメディ作品。

マルコの経営する自動車教習所というのは、日本のように専用の練習コースがある訳ではなく、教習用の車を生徒に運転させ、一緒にパリの市内を走り回るというスタイル。収入の方は、小さな美容院を経営するイレーヌと比較してさえ、決して多いとは言えない筈であり、小学生くらいの子どもまであるにもかかわらず、彼女との正式な結婚を躊躇っていた背景には、そういった経済的な理由もあったのだろう。

そんな彼が妊娠したのは、彼を診察した専門医がかねてから論文で予言していたとおり、人工食品の過剰摂取に伴うホルモンバランスの変異によるもの。その後、世界各地から男性の妊娠が続々と報告されるようになるが、その最初の人物であるマルコは一躍時の人となり、男性用マタニティウェアのメーカーと高額なモデル契約を結ぶことになる。

本作の原題は“人類が月面を歩いてから最も重要な出来事”という意味らしく、それにちなんで米国の宇宙飛行士による実際の月面作業の様子がタイトルバックに映し出されるのだが、月面を飛び跳ねるようにして移動する彼等の姿はむしろ滑稽であり、この人類の“偉業”に対する敬意が全く感じられないあたりが、いかにもフランス映画らしい。

そして、男の出産というもう一つの偉業の方も、それと同様(?)、誠に他愛のないナンセンスな結末を迎える訳であるが、そのことを理由にマルコを批判する記事を掲載した新聞を、“アホらしい”と言わんばかりに道端に投げ捨てて二人の結婚式に出発するというラストシーンも、またいかにもフランス映画らしかった。

ということで、「シェルブールの雨傘(1963年)」の10年後に公開された作品であるが、ジャック・ドゥミらしい軽やかな演出とパステル調の美しい色使いは健在であり、なかなか楽しい雰囲気の佳品に仕上がっておりました。