外套と短剣

1946年作品
監督 フリッツ・ラング 出演 ゲイリー・クーパー、リリ・パルマ
(あらすじ)
第二次大戦末期、アメリカの戦略事務局OSSは、ドイツが南フランスから大量のウラン鉱やトリウム鉱を運び込んでいるとの情報を入手。ナチスが原爆の製造に取り組んでいると睨んだ彼等は、大学で物理学の研究をしているジェスパー博士(ゲイリー・クーパー)に対し、最近、ドイツからスイスに逃亡してきたハンガリー人のキャサリン・ロダー博士と会って情報を聞き出すよう依頼する….


フリッツ・ラング第二次世界大戦後に撮ったスパイ映画。

ジェスパー博士はいたって普通の大学教授だったのだが、ロダー博士がナチスに殺されてしまうと、今度はドイツ人科学者に成りすまし、彼女が一緒に研究する予定だったポルダ博士と会うためにナチス占領下にあるイタリアへと向かい、そこでパルチザンジーナ(リリ・パルマー)たちと出会う。

ラングの反ナチス映画の系列に属する作品なんだろうが、戦後に撮られたということで、プロパガンダ色は「恐怖省(1944年)」よりもさらに希薄であり、ほとんど普通の娯楽作品と変わりない。

相変わらずペース配分がおかしいというかユニークであり、中盤におけるジェスパー&ジーナのロマンス・シーンとそれ以外の部分とのテンポの落差に少々戸惑いを覚えるものの、これ以前の作品に比べれば全体的な統一感は維持されており、かなりハリウッド映画っぽくなってきたといってよい。

まあ、ゲイリー・クーパー扮するジェスパー博士が新米スパイということもあって、あまり活躍の場が与えられず、最後は「誰が為に鐘は鳴る(1943年)」とは正反対の驚くべき展開のままで終わってしまうのだが、そのちょっと前に出てくるポルダ博士を監視していた男との無言の格闘シーンはなかなか迫力があり、その直後に初めて人を殺した彼が呆然とするシーンを挿入しているところなんかも気が利いている。

ということで、ヒロイン役のリリ・パルマーは、本作がハリウッドでの初主演作品になるらしく、同じドイツ人ということで(イタリア人役なのにもかかわらず)最初はディートリッヒの二番煎じみたいな雰囲気を醸し出しているのがちょっと面白い。しかし、実際はずっと気さくな性格の女優さんのようであり、なかなか好感が持てました。