マン・ハント

1941年作品
監督 フリッツ・ラング 出演 ウォルター・ピジョンジョーン・ベネット
(あらすじ)
第二次世界大戦前夜のドイツ。名ハンターとして有名な英国人のソーンダイク大尉(ウォルター・ピジョン)は、ヒトラー相手に“狩”の真似事をしているところをドイツ兵に取り押さえられ、暗殺未遂事件の犯人にされてしまう。その後、幸運が重なって命からがらロンドンまで逃げ戻ってきたソーンダイクであったが、この事件を政治的に利用したいと考えるゲシュタポの魔の手は再び彼に迫ってくる....


ドイツ出身のラングがハリウッドに渡って撮ったサスペンス映画。

ソーンダイクがヒトラーを狙ったのは、当初、スポーツとしての“狩”の延長線上にある行為(=獲物との駆け引きを楽しむことが目的で最初から殺すつもりは無かった。)として説明されるのだが、最後の方でゲシュタポに追い詰められた彼は、自分の中に秘められた(しかし、明確な)殺意があったことを告白する。

まあ、今となってみれば、ヒトラー暗殺を題材にしたサスペンス映画なんて珍しくもないのだが、チャップリンの「独裁者(1940年)」と同様、本作が公開された当時はまだナチス・ドイツはピンピンしていた訳であり、そんな時期にヒトラーを名指しで非難するばかりか、暗殺まで示唆するというのは、ちょっと凄い。

しかも、サスペンスにラブロマンス、そして全体に漂うそこはかとないユーモア感といった具合に娯楽的要素がふんだんに盛り込まれているため、仮にこれが架空の国のお話しだったとしても、十分に一本の作品として成立するだけの内容を伴っており、単なるプロパガンダ映画とは明らかに一線を画す作品になっている。

また、主役のウォルター・ピジョン以外にも、彼を慕う娼婦ジェリー役のジョーン・ベネット、不気味な雰囲気に包まれたゲシュタポ・メンバーのジョージ・サンダース&ジョン・キャラダインといった魅力的な俳優を取り揃えており、さらには子役時代のロディ・マクドウォールまで顔を見せるということでファン・サービスは満点。

ということで、おそらくヒッチコックに撮らせていたら、もっとスマートなスリラー映画になっていたと思うが、このアクの強いザラザラとした舌触りがラング作品の持ち味であり、ソーンダイクとジェリーとのあの不器用なラブロマンスを描くのには最適だったような気がします。