1943年作品
監督 フリッツ・ラング 出演 ブライアン・ドンレヴィ、アンナ・リー
(あらすじ)
ナチス・ドイツ占領下のプラハ。店先で買い物をしていたマーシャ(アンナ・リー)は、何者かに追われている不審な男(ブライアン・ドンレヴィ)を目撃するが、彼を追っているのがゲシュタポだと知ると、実際とは反対の方向へ逃げていったと彼等に嘘をつく。逃亡中の男は、死刑執行人の異名を持つナチス総督ハイドリヒを暗殺した犯人であり、逃げ切れなくなった彼はたまたま知ったマーシャの家を訪ねて助けを求める….
マーシャの父ノヴォトニー教授(ウォルター・ブレナン)の協力によって、暗殺犯である医師のフランツは無事逃げおおせるものの、今度は教授自身が犯人逮捕までの“人質”としてゲシュタポに連行されてしまい、マーシャは祖国の英雄であるフランツの命か、若しくは自分の父親の命かという究極の選択を迫られることになる。
凡百のハリウッド映画であれば、これにマーシャとフランツとのラブロマンスを絡ませたくなるところであろうが、本作の脚本を担当しているのは、あの劇作家ベルトルト・ブレヒトということで、そんな甘っちょろい展開は以ての外。あくまでも祖国愛と家族愛との葛藤という格調高いテーマの下でストーリーは続いていく。
ところが、処刑されることの決まったノヴォトニー教授が幼い息子(=そして、当時の大衆)への最期のメッセージをマーシャに託すという感動的なシーンの後、映画の雰囲気はそれまでの静から動へと大きく変化してしまい、何故か処刑されなかった教授を含む人質の命を救うため、マーシャやフランツ、それに大勢のプラハ市民を巻き込んだ一大作戦が展開される。
allcinemaの情報によると、本作の脚本の著作権を巡ってラングとブレヒトとの間で訴訟にまで発展する争いがあったということで、その影響もあるのかもしれないのだが、まあ、この後半のストーリーも皮肉が効いていてなかなか面白くはあるものの、作品の完成度を考えた場合、あの最期のメッセージのところで終りにしておく手もあっただろうと思う。
ということで、珍しくインテリの大学教授に扮したウォルター・ブレナンの名演はいつもながら素晴らしいが、本作といい、先日拝見した「マンハント(1941年)」といい、ラングの反ナチス映画は大変面白い。次はいよいよ「恐怖省(1944年)」を見てみたいと思います。