1944年作品
監督 フリッツ・ラング 出演 エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット
(あらすじ)
大学の心理学の助教授であるリチャード・ウォンリー(エドワード・G・ロビンソン)は、妻子をバカンス旅行に送り出した帰り道、街中のショウウィンドウに飾られていた美しい女性の肖像画にしばし見入ってしまう。クラブで友人たちとの食事や酒を楽しんだ後、帰宅途中に再びそのショウウィンドウを眺めていると、彼の傍らに絵のモデルになった女性アリス(ジョーン・ベネット)が立っていた….
フリッツ・ラングが「恐怖省(1944年)」と同じ年に公開した作品。
束の間の独身生活ということで、少々酔って気が大きくなっていたリチャードは、アリスに誘われるまま彼女のアパートまで付いて行ってしまうのだが、そこで彼女のパトロンと鉢合わせ。いきなり飛び掛ってきたその男から逃れようと、必死の思いでハサミをその背中に数回突き立てると、当たり所が悪かったのか、その男はあっさり死んでしまう!
というのが本作の導入部なんだけど、アリスのような美女(=決して売春婦ではない。)が街角で出会っただけの風采の上がらない中年男を自宅に誘ったり、彼女のパトロンが何の説明も求めずにいきなりリチャードを絞め殺そうとしたりといった具合に、ここまでだけでも不自然な描写が結構目立つ。
そして、そんな傾向はその後も一向に改善される様子もなく、随分と強引な脚本なんだなあと思いながら見ていたのだが、最後の最後に特大のタネ明かしが用意されており、何と友人とクラブで別れてからの話はすべてリチャードの夢だった!!
まあ、一般的には“夢オチ”というのは反則技なんだろうが、本作に限って言えば、あの強引な筋立ても夢だとすれば逆に納得できるということで、騙されていたことが分かってからも全く腹は立たない。犯罪心理学に詳しい筈のリチャードが、友人の地方検事の前で、何故か自分に不利な事実ばかり口走ってしまうというシーンなどは、正に悪夢そのものといって良いだろう。
ということで、フリッツ・ラングにとって、この頃がハリウッドにおける絶頂期だった訳であり、だからこそこのような大胆な仕掛けを採用することが出来たのだろう。そして、その効果は十分にあったと思うのだが、実際は上映時間の9割以上を“つまらない作品を見てしまった”と後悔しながら見ていたので、まあ、全体的な満足度は程々といったところです。