あした来る人

1955年作品
監督 川島雄三 出演 山村聡月丘夢路
(あらすじ)
大阪商工会議所会頭の梶大助(山村聡)の一人娘である八千代(月丘夢路)は、父親の勧めもあって東京在住のサラリーマン大貫克平と結婚したものの、ヒマがあると一人で山登りに行ってしまう彼の性格に付いていけず、夫婦仲は悪化の一途。一方、大助には、以前から経済面で援助をしている山名杏子という女性がいたが、ある日、偶然に出会った克平と杏子は、お互いに好意を抱く….


日活に移籍した川島雄三が「愛のお荷物(1955年)」に続いて発表した文芸作品。

梶大助以外に、大貫克平(三橋達也)と八千代夫妻、山名杏子(新珠三千代)、それに八千代がほのかな思いを寄せるカジカ研究家の曽根二郎(三国連太郎。ちょっぴりユーモラスな雰囲気が今の佐藤浩一にそっくり!)という同年代(=30歳前後くらい?)の男女4人が登場し、彼等が中心になってストーリーは展開する。

井上靖の原作らしく、主人公の一人である大貫克平は“自分は山に登るために生まれてきた”と公言して憚らない根っからの山男という設定であり、カラコルム山脈にある未踏峰征服の夢の実現のために勤め先を退社してしまうような男。正直、お嬢様育ちの八千代が彼のような人物のどこに惚れたのか理解に苦しむのだが、良く考えてみれば、彼女が次に好きになる曽根二郎も、カジカ研究のためなら命も惜しくないと言い出しそうなキャラであり、おそらくそういった類の男が好きなだけなんだろう。

我が道を行くタイプの克平も、3回に1回くらいは八千代を高尾山あたりのハイキングに誘う努力を惜しまなければ、カラコルム征服の夢を夫婦で共有することも出来たかもしれないのだが、まあ、一度痛い目に合わないと分からないのが困りもの。題名の「あした来る人」には、“未完成の大人”みたいな意味があるらしい。

映画は、八千代との離婚を決意した克平が羽田空港からカラコルム山脈へ向けて飛び立つところで終わってしまい、結局、この4人はバラバラのままなのだが、そんな重苦しい雰囲気を和らげるのに大きく貢献しているのが、高原駿雄小沢昭一のお笑いコンビ。本作では前者の比重が重いのだが、この後、川島に重用されるのは後者である点が興味深い。

ということで、作品中、克平が遭難騒ぎに巻き込まれるエピソードがあるのだが、その舞台になるのが北アルプス鹿島槍ヶ岳後立山連峰縦走のコースに入っているのだが、なかなか大変そうな山らしく、もう少しスキル・アップしてから挑戦してみたいと思います。