カタロニア讃歌

ジョージ・オーウェルの書いたスペイン内戦従軍記。

動物農場」と「1984年」のどちらを読もうか考えていたときに知ったのが本書の存在であり、英国人であるオーウェルがあのスペイン内戦に義勇軍の一人として参加し、そのルポルタージュまで書いていたという事実に吃驚仰天。先の2冊は後回しにして早速こちらを読んでみることにした。

さて、新聞記事を書こうとして内乱の始まったスペインを訪れたオーウェル(=当時33歳)が、(本来の意味における)アナーキスト支配下にあったカタロニア地方の革命的雰囲気に触発されて義勇軍に身を投じるというところからルポは始まるのだが、勝手にペシミストの権化みたいなイメージを抱いていたオーウェルの率直で清々しい語り口にまず驚かされる。

もちろん、シラミや汚物にまみれて空腹や寒さを堪え忍ばなければならなかった前線でのみじめな体験や、人民戦線の内部分裂によってバルセロナの人々の活気に満ちた雰囲気が急速に失われていく様子等々、書かれている内容は決して明るいものではないのだが、オーウェルの(=もしかしたら翻訳を担当した橋口某の?)淡々とした語り口のお陰で、読み終えたときにはちょうど「モーターサイクル・ダイアリーズ(2004年)」を見終わったときのような不思議な爽快感を覚えた。

まあ、内容に関しては、オーウェル自身の“事実を誤認しているかも知れないし、事件の一端をしか見ていないことから、歪めて書いているかも知れないことに留意して頂きたい”という謙虚なお言葉のとおり、彼の体験が全てではないのだろうが、ファシストばかりでなく、スターリンに操られたコミュニストの手によってカタロニアでの“革命”が短期間のうちに押し潰されてしまったのは返す返すも残念なことであった。

ということで、商店や喫茶店が労働者の共同所有に移され、街中からブルジョワ的な慣習やファッションが姿を消すというユートピア的な光景を(たとえ一瞬であったにしろ)目撃できたのは羨ましい限りであり、次はそんなオーウェルの書いたディストピア小説1984年」を読んでみたいと思います。