情事の終わり

グレアム・グリーンの代表作の一つ。

俺は、年老いて読書くらいしか楽しみが無くなったときに読むための小説家を何人かキープしており、グレアム・グリーンもそんな中の一人。そのため、彼の作品を読むのをずっと我慢していたのだが、近頃、他に読みたくなるような小説が見当たらなくなってきてしまったことから、今回、やむなく解禁した次第。

さて、彼の原作を映画化した作品はこれまで何本も見ており、そのせいでスパイものやら犯罪ものといったイメージが強かったのだが、意外にも本書の前半は男女の三角関係の描写に費やされている。まあ、いい年をした男の嫉妬の話は読んでいてあまり楽しくないのだが、主人公が雇った間抜けな私立探偵が三角関係の頂点にあるヒロインの日記を入手した時点でストーリーは一転。

それまで主人公の一人称の形で語られていた物語を、今度はヒロイン側の視点から描き直すことによって読者に衝撃を与える手法は、先日拝見した「ゴーン・ガール(2014年)」と同様なのだが、本作の凄いところはそれに止まらず、作品のテーマ自体が恋愛から信仰へ、そしてさらには神の実在の問題へとダイナミックに変貌を遂げていく!

まあ、信仰の対象としての内心上の神であればあまり恐ろしくもないのだが、奇跡という形で現実社会に直截的に関与してくる神が実在するとした場合、日頃信仰をおろそかにしている者にとってこれ以上の恐怖は無い訳であり、赤痣の男が癒やされるというエピソードを読んだときには、思わずトリ肌が立ってしまった。

ということで、ラスト近く、聖職者に言い負かされてしまった主人公が悔し涙を流すシーンが出てくるのだが、聖職者にしてみれば主人公が生きながらえていること自体が神の思し召しということになるのだから、まあ、最初から勝ち目は無い。主人公が神の軍門に降るのも時間の問題といったところなんでしょう。