ノートル=ダム・ド・パリ

ヴィクトル・ユーゴーが20代後半に発表した長編小説。

ミュージカル版の「ノートルダム・ド・パリ」に興味を抱いたのは、今年の1月、東急シアターオーブの「ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2016」でマット・ローランの歌う“踊って、僕のエスメラルダ”を聴いたのがきっかけ。とりあえず原作でも読んでみようと思ってAmazonで検索したところ、岩波文庫版は絶版になっており、ちょっとお高い潮出版社の「ヴィクトル・ユゴー文学館第五巻」を購入することになってしまった。

さて、我々の世代には「ノートルダムのせむし男」として有名な作品であるが、実際には“せむし男”ことカジモドの出番はそれほど多くなく、彼が主体的に行動を開始するのはヒロインであるジプシー娘のエスメラルダを単身刑場から救い出そうとする終盤以降のこと。

それに代わって、作品全体を覆う沈鬱なイメージの原因になっているのが、カジモドの養父でもあるクロード・フロロ司教補佐の“禁断の恋”であり、いい年をした聖職者でありながら年若のエスメラルダに対して燃えるような恋心を抱いてしまい、彼女を自分のものにするために様々な奸計を企てる。

まあ、せつない男心を理解できないような小娘に心を奪われてしまったのは彼にとっても悲劇であり、その恋心に(恋敵であるフェビュス大尉のような)偽りは無いのであろうが、彼の行動の心理的背景にエスメラルダを自分より劣った存在とみなす歪な優越感があったのは否定しがたいところであり、やはり“宿命”の一言で許されるようなことでは無かったのだろう。

ということで、本書を読んでいる最中に新たな出来事が二つ。その一つは絶版になっていた岩波文庫が再版されたことであり、うーん、もう少し待っていれば数千円の節約になったのになあ。もう一つのニュースは、劇団四季が年末から「ノートルダムの鐘」を上演するとの発表があったことであり、フランス製の「ノートルダム・ド・パリ」ではないにしろ、一度拝見させて頂こうと思います。