暗殺者の家

1934年作品
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演 レスリー・バンクス、エドナ・ベスト
(あらすじ)
イギリス人のローレンス(レスリー・バンクス)は、妻のジル(エドナ・ベスト)と娘のベティを連れてサンモリッツを訪問中、知人のルイが何者かによって射殺されるという事件に遭遇する。ルイの言い残した言葉に従って彼の部屋を捜索したローレンスは、そこで1枚のメモを発見するが、その直後、メモの内容を口外したら誘拐した娘の命は無いという脅迫状が彼の元へ届く….


ヒッチコックがスリラー専門に転向する契機になったといわれる初期の代表作。

渡米後、「知りすぎていた男(1956年)」としてセルフリメイクされる作品のオリジナルになる訳であるが、随分昔に一度見ただけのリメイク版に関する記憶はかなり曖昧になってきており、そのおかげもあって新鮮な気持ちで鑑賞することが出来る。まあ、これも老化の一つの利点なんだろう。

さて、上映時間が76分と短めであることからストーリー展開はかなり性急であり、ボーッとして見ていると細かな設定を見逃してしまう危険性大。ルイの残したメモに書かれていた“A. Hall”の文字が、男性の名前では無く、要人暗殺計画の舞台となる“Royal Albert Hall”を示していたというあたりが推理劇の一つの核心になるのだと思うが、そのことを確認するためには、鑑賞後にもう一度DVDを見直す必要があった。

しかし、そんな大忙しの状況にあっても、随所に本筋とは全く関係の無いギャグを挿入してくるところがヒッチコックらしいところであり、結構笑えるものも少なくない。そして、その直後に無慈悲な殺人が行われるといった緩急自在な演出は、スリラーの名手の片鱗を早くも示しているといって良いだろう。

出演者の中で唯一見覚えがあるのは、国際的な暗殺集団の首領アボットを演じるピーター・ローレ。「マルタの鷹(1941年)」や「カサブランカ(1942年)」で印象的な演技を見せてくれる7、8年前の作品になるのだが、画面から受ける印象ではこの作品の方がずっと“大物”に見えるところが面白かった。

ということで、それなりに盛り沢山な内容を短時間に納める必要からか、かなり強引な演出も目立っており、作品の完成度は必ずしも高くない。機会があれば、上映時間120分のリメイク版の方ももう一度見直してみたいと思います。