知りすぎていた男

1956年作品
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演 ジェームズ・スチュワートドリス・デイ
(あらすじ)
妻のジョー(ドリス・デイ)と息子のハンクを連れて仏領マラケシュを訪れていたアメリカ人医師のマッケンナ(ジェームズ・スチュワート)は、そこで知り合ったルイ・ベルナールと名乗るフランス人が何者かによって刺殺される現場に遭遇。瀕死のルイから要人の暗殺計画に関する情報を託されるが、そんな彼の元へ、情報を口外したら誘拐した息子の命は無いという脅迫電話がかかってくる….


先日拝見した「暗殺者の家(1934年)」のヒッチコック自身によるリメイク作品。

大まかなストーリーはオリジナル版と同じであるが、上映時間が76分から120分へと40分以上長くなっていることに加え、エピソードの幾つかを削ってストーリーを整理しているため、オリジナル版を見たときに気になった“性急さ”はすっかり影を潜めている。

そして、それらによって生み出された“時間”の相当部分を登場人物の詳細な描写に注ぎ込んだ結果、オリジナル版では(アッという間に殺されてしまうため)印象の薄かったルイ・ベルナールは、敵か味方か分からない謎めいた人物へと生まれ変わっており、序盤におけるサスペンスの盛り上げに大きく貢献している。

また、いかにも胡散臭そうだったアボットに代わって、一見脇役としか思えないくらい影の薄いドレイトン夫妻をメインの悪玉に起用したのも功を奏しており、息子の誘拐によってようやく彼等の正体に気付いたときの主人公の驚愕と絶望感は、見ているこちらにもありありと伝わってくる。

脚本的に残念だったのは、主人公の妻ジョーが暗殺の舞台となるロイヤル・アルバート・ホールへ駆けつけるのが単なる偶然(=探しているブキャナン警部の行き先がそこだった。)になってしまっているところであるが、本作の一回目のクライマックスであるあのシンバルのシーンにもたっぷりと時間が割かれており、ハラハラドキドキ感はオリジナル版を大きく上回る。やはり、これをきちんと描くためには76分は短すぎたのだろう。

ということで、このセルフ・リメイクは大成功というのが今回の結論であるが、もし見る順序が逆だったらどう感じていたか、ちょっぴり気になるところ。おそらく結論は変わらないと思うが、オリジナル版におけるスピーディーな場面展開にももう少し好意的になれたかもしれません。