追憶のハルマゲドン

カート・ヴォネガットの死後に刊行された未発表作品集。発売されたときにすぐ購入したのだが、読むのがもったいないのでずっと取って置いた。

内容は、何らかの理由によってボツにされた短編をかき集めたものであり、正直、作品のレベルはあまり高いとはいえない。個人的な好みからすると、辛い捕虜生活に耐えるため、食欲の世界に逃避する様を描いた「バターより銃」が一番面白く、他では「司令官のデスク」がかろうじて標準レベルに達しているくらい。

しかし、もうこれ以上ヴォネガットの“新作”を読めないとなると、作品の出来、不出来とは無関係に、その一編、一編がとても愛おしいく、また、これまで多くの作品の中で取り上げられ、彼の創作活動の原点となった“ドレスデン空爆”について、正面からストレートに記述した「悲しみの叫びはすべての街路に」が含まれている点もなかなか感慨深い。

小説以外にも、ご子息のマーク・ヴォネガットによる序文や亡くなる直前に書き上げたスピーチ原稿等が収められているなど、ファンにとって嬉しい内容になっているのだが、読んでいて複雑な気持ちになってしまうのは、彼の作品にみられる優しさやナイーブさが少々時勢に合わなくなっているように感じられるところ。それは、決して社会が進歩しているからではなく、むしろ野蛮化しているせいだと思う。

ということで、これでもうヴォネガットの新作を読むことは出来なくなってしまった訳であるが、トラルファマドール星人風に考えれば彼の存在は永遠であり、これからも時々本棚から旧作を取り出してきて彼との旧交を温めたいと思います。