2012年作品
監督 サーシャ・ガヴァシ 出演 アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン
(あらすじ)
新作の“北北西に進路を取れ”は好評だが、一部では既に下り坂と揶揄される映画監督のヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)。しかし、本人はまだまだ意欲十分であり、次回作として実在の殺人鬼エド・ゲインをモデルにした小説“サイコ”の映画化を思い立つが、妻のアルマ(ヘレン・ミレン)や映画会社はこの企画に懐疑的。追い込まれたヒッチコックは、私財を投じて製作に入ることを決意する….
ヒッチコックの代表作の一つである「サイコ(1960年)」製作の舞台裏を描いた作品。
舞台裏といってもいろいろある訳であるが、本作が注目しているのはヒッチコックとその妻アルマとの夫婦関係。Wikipediaによると、この二人はいずれも1899年の生まれであり、しかも誕生日はアルマの方が一日遅いだけということで、本作の舞台となる1959年当時の年齢はともに60歳。
こんな熟年カップルの色恋沙汰なんて誰も見向きもしないと思うのだが、本作では、長年、美人女優の尻を追い掛け回してきた夫への不満が鬱積しているアルマと、そんな彼女の浮気を疑うヒッチコックの描写に相当の時間を割いている。まあ、アンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンという二人の名優のおかげで、それなりに見応えのあるシーンにはなっているのだが、正直、俺が見たかった“舞台裏”はこんなほのぼのとしたものではない。
ヒッチコックのダークサイドを表現する手段として、殺人鬼エド・ゲインの“亡霊”を登場させたのは良いアイデアだと思うが、これが全くの中途半端であり、熟年カップルのほのぼのムードに押されて何の効果も上げていないところがとても残念だった。
出演者ではやはり主演の二人が素晴らしいのだが、アンソニー・ホプキンスがあまりヒッチコックに似ていないところがご愛嬌。また、ジャネット・リー役でスカーレット・ヨハンソンが出ているのだが、彼女はどう見ても“クールビューティー”の柄ではなく、こちらは完全なミスキャストだと思った。
ということで、実をいうと俺は「サイコ」がそれ程好きではなく、ビデオ等で気軽に見られるようになってからも長らく放っておいたのだが、ある日、見てみてそれがモノ黒作品であったことに吃驚仰天。ジャネット・リーの金髪、真っ白なバスタブや薄いブルーのカーテンに飛び散る彼女の赤い鮮血といった俺の記憶に刻み込まれたイメージは、全てヒッチコックの魔法の産物だった訳です。