タイムクエイク

カート・ヴォネガットの最後の長編作品。

とはいえ、本書は、一度書き上げた「タイムクエイク」という小説(=タイムクエイク1)の出来がお気に召さなかったヴォネガットが、その小説を没にし、小説に使用したネタと彼の自伝的エッセイとをゴチャ混ぜにして新たに作り上げたという作品であり、正直、あまり小説らしからぬ内容になっている。

「タイムクエイク1」のあらすじは本書の中でもかなり紹介されているのだが、2001年に起こったタイムクエイクの影響で1991年に戻ってしまった人類が、それからの10年間を再度忠実に繰り返すハメになるというアイデアは十分に面白い。この間、人々は前回の記憶を有しつつも、前回の行動を修正することは出来ないということで、例えば、この10年の間に交通事故で死亡した方は、自分が事故に遭うことを知りながらその車に乗り込まなければならない訳。

実は、先日拝見したデュヴィヴィエの「フランス式十戒(1962年)」の第4話に、神様から “20歳のときに戻してあげる”と告げられた老女がそれを拒否するシーンがあり、おそらく辛く苦しい人生を送ってきた彼女にとって、それを再度繰り返すことは死ぬよりも恐ろしいことなんだろうが、「タイムクエイク1」ではその恐怖を全人類が体験しなくてはならない訳で、いや〜、考えただけでおぞましい。

しかも、再び2001年を迎えたとき、“自由意志”の何たるかを忘れてしまった人々を救うために、あのキルゴア・トラウトが大活躍するというのも誠に胸躍るシーンであり、出来なんか悪くたって全然かまわないから、是非、「タイムクエイク1」の方を通しで読んでみたい! もし、この作品が実在するのなら、何とか俺の生きている間に公開してもらえないものだろうか。

ということで、これでヴォネガットの未読作品の在庫は遺作「追憶のハルマゲドン」を残すのみとなってしまった訳であるが、う〜ん、どんなときに読んだら良いのか迷ってしまいます。