とんかつ大将

1952年作品
監督 川島雄三 出演 佐野周二津島恵子
(あらすじ)
“とんかつ大将”こと荒木勇作(佐野周二)は浅草亀の子横町の相談役。ある日、老人が車にハネられそうになった現場を目撃した彼は、運転手に金を渡すよう指示しただけで、車を降りて老人に謝ろうともしない若い女性を叱りつけるが、彼女は亀の子横町の近所で病院を開いている女医の真弓(津島恵子)だった….


川島雄三が「お嬢さん社長(1953年)」の前年に公開した作品。

実は荒木自身も医師であり、しかもその腕前は真弓より上。自分が苦戦していた手術を、途中から代わった荒木が手際よく処理する様子を見て、真弓は彼を信頼し、好意を抱くようになるのだが、戦争で行方不明になった恋人がいるという設定の荒木は、とにかく女性にはそっけなく、二人の仲はいっこうに進展しない。

そんな中、真弓の新病院建設構想が持ち上がり、しかもその建設予定地として亀の子横町の住民の立退きが必要になることが明らかになるため、観客の期待とは反対に、荒木と真弓の対立はむしろ悪化する方向へ。人情劇なので、最後は一応丸く収まるのだが、結局、この二人は結ばれることなく終わってしまう。

本作は、俺が今まで見た川島作品の中では最も初期のものになる訳であるが、そんなこともあって、人情劇としてかなりストレートな内容の作品に仕上げられている。まあ、荒木と真弓だけでなく、荒木の同居人である艶歌師吟月の純愛も実らせてあげないあたりに川島らしい意地の悪さが出ていないでもないけどね。

主演の佐野周二は、いつもながらの誠実なキャラクターを熱演している訳であるが、正直、俺にはどうしてこの人が当時人気があったのか理解できない。それ程二枚目だとも思えないし、映画スターらしい雰囲気にも欠けているような気がする。一方の津島恵子も、本作に関しては少々貧乏クジだったようであり、役柄的に彼女の良さを発揮できなかったのが残念である。

ということで、本作で一番輝いていたのは吟月役の三井弘次。黒澤作品等で重宝された名脇役であるが、本作でも、少々陰鬱になりがちな作品の雰囲気をその独特のセリフ回しで明るく盛り上げていた様は、正に殊勲賞ものと言えるでしょう。