洲崎パラダイス 赤信号

1956年作品
監督 川島雄三 出演 新珠三千代三橋達也
(あらすじ)
一文無しの義治(三橋達也)と蔦枝(新珠三千代)は、洲崎遊廓の入り口にある一杯のみ屋「千草」に転がり込む。そこの女将のお徳の紹介により、義治は近所のそば屋で出前として住み込みで働くようになるが、相変わらずうだつが上がらない状態。一方、蔦枝のほうは「千草」の常連客の落合に気に入られ、次第に深い仲へ….


川島雄三が「風船(1956年)」と同じ年に発表した作品。

一言で言うと“大人の純愛映画”であり、義治&蔦枝以外にも蔦枝&落合、義治&そば屋の女店員、お徳&帰ってきた亭主、帰ってきた亭主&追いかけてきた女、それに「千草」の若い客&遊廓に売られてきた娘といった複数のカップルが登場し、それぞれの愛の形を見せてくれる。

まあ、義治と蔦枝の関係については“腐れ縁”というのが最も一般的な評価なんだろうが、遊廓出身らしい蔦枝には他の男との浮気なんかでは全く傷つくことのないある種の“純潔さ”が秘められており、そのせいか、この二人の結びつきからむしろ精神的な雰囲気さえ感じ取ることができるのがとても面白い。

この蔦枝に扮しているのが、公開当時26歳の新珠三千代な訳であるが、俺は、正直、彼女がこんなに上手い女優さんだとはこれまで思ってもみなかった。彼女の場合、やはり宝塚出身ということで、良くも悪くも上品な役柄が目立っていたと思うが、本作では社会の底辺を健気に生き抜いていく女性を見事に演じており、作中で何度か登場する“何かを思いつめたように後ろを振り返ることなく駆け出して行くシーン”はとても印象的だった。

相手役の三橋達也は、そんな新珠三千代の迫力にちょっと押され気味ではあるが、彼の適度なダメ男ぶりはやはり本作に欠かせない存在。また、「風船」でも彼等と共演していた芦川いづみが義治に思いを寄せるそば屋の女店員役で出演しており、あまり出番は多くないものの、やはり可憐なお姿を見せてくれる。

ということで、これだけの内容を81分という比較的短い時間に収めているため、本作は無駄なシーンが一つもない非常に完成度の高い作品に仕上がっている。川島は、溝口や黒澤のように海外の映画賞を取っていないせいか、国内での評価もいま一つ的なところがあるが、その実力は決して彼らに劣るものではないということを再認識させてくれる傑作です。