愛のお荷物

1955年作品
監督 川島雄三 出演 山村聡三橋達也
(あらすじ)
ベビーブームによる人口増加を抑制するため、厚生大臣の新木錠三郎(山村聡)は受胎調節相談所設置法案の成立に向けて国会での対応に追われていた。そんなところへ長男の錠太郎(三橋達也)から“付き合っている大臣秘書の五代が妊娠したので、彼女との結婚を認めて欲しい”との話があり、それを皮切りに錠三郎の周りでにわかに出産ブームが巻き起こる….


川島雄三が「幕末太陽伝(1957年)」よりも前に撮った作品を初めて見てみた。

長男の恋人に続き、錠三郎の妻、長女、次女、女中の妊娠が次々と発覚し、本来、人口増加の抑制に努めなければならない錠三郎の政治生命は大ピンチ。そんな彼の姿をテンポのよいセリフと演出でとても面白可笑しく描いており、さしずめ和製スクリューボールコメディの傑作といったところ。第一次ベビーブーム(=概ね1947年から1950年まで)が終わった頃に公開されたものであるが、少子高齢化が叫ばれる現代から当時の様子を振り返るとまさに隔世の感がある。

主演の山村聡は一連の小津作品なんかに出ているときとは打って変った軽妙な演技を披露しており、流石に上手いもんだね。一方の三橋達也も“和製ケイリー・グラント”の名に恥じぬ洗練されたスタイルで、普段はいい加減でも決めるときは決めるという日本人俳優には難しいキャラを無難にこなしている。

その他の出演者もなかなか豪華であり、錠三郎の妻役に轟夕起子、錠太郎の恋人役に北原三枝を持ってきている他、フランキー堺東野英治郎山田五十鈴等々といった大物を惜しげもなく脇役として配しており、彼等の顔を見ているだけでもとても楽しい。

ということで、実際、旧厚生省は1952年に「受胎調節普及実施要領」というものを発表している故、この作品が公開された当時は社会風刺という意味合いもあったのかもしれないが、優れた脚本と演出は時代に左右されることはなく、今見ても全然文句なしに面白い。川島雄三は「幕末太陽伝」ばかりが有名という印象があったが、それ以前の作品も素晴らしいってことがよーく分りました。