ブルグ劇場

1936年作品
監督 ヴィリ・フォルスト 出演 ヴェルナー・クラウス、ホルテンセ・ラキイ
(あらすじ)
19世紀末のウィーン。ブルグ劇場の大看板フリードリッヒ・ミッテラー(ヴェルナー・クラウス)は名優の名を欲しいままにしていたが、そんな世間の評判をよそに彼自身は何か満たされぬ孤独な日々を送っていた。そんなある日、彼が散歩中にふと立ち寄った教会で町の仕立屋の娘レニ(ホルテンセ・ラキイ)と出会い、その汚れない美しさに心惹かれる….


以前から見たかった戦前のドイツ映画の傑作。昔、古谷三敏の漫画「寄席芸人伝」(=こっちも名作!)にも取り上げられていた。

ミッテラーは60歳台前半くらいの設定なのかなあ、まだ“老いらくの恋”というのにはちょっと早すぎるのかも知れないが、年甲斐もなく若い女性に魅了されてしまう。その二人が初めて出会う教会で一心に祈りを捧げるレニの姿は、(ミッテラーの言葉じゃないけど)まさに天使のように清らかで美しい。

しかし、彼女が口を開くと、その実態は駆け出し俳優のライナーに夢中なごく普通の女の子。そして、この若い恋人たちの美しさと愚かしさがミッテラーの人生を惑わし、さらには別のスキャンダルを惹き起こしてしまう。ミッテラーはレニとの二人だけの生活を夢見て、俳優を引退することまで決意するんだけど、そんな彼がレニ自身の言葉から真実を悟るシーンは相当残酷です。

ところが! ここで彼は何とか踏み止まるんだよね。そして、レニの願いを叶えてあげた後、彼が劇場を去ろうとすると、出口のベンチで待ちくたびれて眠り込んでしまったレニの姿が目に入る。いや、本当に口を開いていないときの彼女は天使そのものな訳で、彼はそんな彼女に声をかけることなく一人劇場を後にする・・・。このシーンも記憶に残る名シーンですな。

ということで、老い(=醜悪、英知)と若さ(=美、無知)の対比の中で人間の悲喜劇を描いた作品な訳だけど、小道具のネックレスを効果的に使用するなど脚本のほうもお見事。フォルストの作品を見るのはこれが初めてだが、予想を上回る大傑作で、こうなると俄然「未完成交響楽(1933年)」や「たそがれの維納(1934年)」も見たくなってくるね。