フィツカラルド

1982 年作品
監督 ヴェルナー・ヘルツォーク 出演 クラウス・キンスキー、クラウディア・カルディナーレ
(あらすじ)
19世紀末の南米ペルー。アイルランド生まれのブライアン・フィツジェラルド(クラウス・キンスキー)は、壮大な野望を胸に様々な事業を計画するが、結果はいつも失敗。それでもジャングルにオペラハウスを建設する夢を捨てきれない彼は、ゴム事業で成功を収めた他の白人たちに馬鹿にされながらも、恋人のモリークラウディア・カルディナーレ)の支援を受け、前人未踏の地にゴム園を開設しようとする….


ヴェルナー・ヘルツォーク&クラウス・キンスキーのコンビの代表作の一つ。

このコンビの作品を拝見するのは「ノスフェラトゥ(1978年)」に次いでこれが2作目ということで、その怪異な響きを持つ題名から、本作もゴシックホラーものかと思って見てみたら、これが大ハズレ。“フィツカラルド”というのは、主人公の名前である“フィッツジェラルド”を現地の人たちが上手く発音できないために付けられたアダ名らしい。

しかし、ジャングルにオペラハウスを建設して、そこであのエンリコ・カルーソーに歌ってもらおうと本気で思い込み、その資金を得るために“舟を山越えさせる”という超難事業に取り組む主人公の思考回路はどこかしら大きく狂っており、そこに、何を考えているのか分からないまま、そんな難事業に協力してくれるインディオたちの不気味さも加わって、ある意味、下手なホラー物よりずっと恐ろしい。

そんな中でも一番恐いのは、こんな無茶苦茶なストーリーを実写で映画化しようと思い付き、しかもそれを実現してしまうヘルツォークの執念であり、主人公が映画の中で表現している“狂気”は、現実社会におけるヘルツォークのそれと見事にシンクロしていると言って良い。

とはいうものの、その結果として出来上がった本作では、彼等の狂気はきちんとコントロールされており、舟が山越えをするクライマックス・シーンは、観客にそれがフィクションであることを忘れさせてしまう程の大迫力。本作の企画があと10年遅ければ、このシーンもCGで描かれていたのだろうが、それではあの緊迫感はとても表現しきれなかっただろう。

ということで、「ノスフェラトゥ」とは全く別の“恐ろしさ”を見せてくれたヘルツォーク&キンスキーのコンビには心から敬意を表したい。次は、このコンビの第一作目である「アギーレ/神の怒り(1972年)」を拝見させて頂こうと思います。