ノスフェラトゥ

1978年作品
監督 ヴェルナー・ヘルツォーク 出演 イザベル・アジャーニ、クラウス・キンスキー
(あらすじ)
上司の指示を受けたジョナサンは、ある古い屋敷の売買契約を結ぶため、単身、依頼主であるドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)の住む山奥の古城を訪れる。ジョナサンが身に付けていたペンダントの写真から、彼の美しい妻ルーシー(イザベル・アジャーニ)の存在を知ったドラキュラ伯爵は、城の一室に彼を閉じ込め、ペストを撒き散らすネズミたちと共にルーシーの住む町へとやってくる….


吸血鬼映画の元祖といわれるF.W.ムルナウの「吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年)」のリメイク作品。

残念ながら、オリジナルの方は見たことがないのだが、本作にも受け継がれていると思われる光と影を効果的に利用した演出なんかを見ていると、怖さがジワーっと伝わってくるような、モノクロならではの不気味な雰囲気を持った作品だったものと思われる。

しかし、それが美しいカラー作品としてリメイクされると、幻想的な雰囲気は大幅に後退し、その映像は観客の現実的な視線に晒されることになる。その結果、本作に登場するドラキュラ伯爵の異様な風貌は、単なる“ハゲ頭+出っ歯”としてしか認識できなくなり、見ていて“恐怖”よりも“憐れみ”に近い感情を抱いてしまう。

また、これは予算面での制約があったせいだと思うのだが、ちゃんと撮影用のセットを組まずに、実際の住居や街並みを使って撮影していることから、ドアの鍵や屋外の手摺りといったちょっとしたところに“現代”が顔を出してしまっており、これがゴシック・ホラー的な雰囲気をぶち壊しにしてしまっている。

と、まあ、ここまで色々と不満ばかりを並べてしまったが、そんな問題を抱えているにもかかわらず、本作は十分に面白い作品であり、見て損をするような心配は全くない。その主な理由は、主役二人による迫真の演技であり、特に、ハゲで出っ歯のドラキュラを最後まで大真面目に演じてみせたクラウス・キンスキーの頑張りは、高く評価されるべきだろう。

ということで、現在では、クリストファー・リーが作り上げた動的なイメージのドラキュラが定番になっている訳であるが、本作における静的なドラキュラ像にもなかなか捨てがたい味がある。あの出っ歯さえ何とかして頂ければ、新しいドラキュラのイメージを構築することも可能なのではないでしょうか。