哀しみのトリスターナ

1970年作品
監督 ルイス・ブニュエル 出演 カトリーヌ・ドヌーヴフェルナンド・レイ
(あらすじ)
母親の死によって天涯孤独の身となったトリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、母親の知人であったドン・ロペ(フェルナンド・レイ)の養女として引き取られるが、女好きの彼はいつしか彼女に“妻”としての奉仕を強いるようになる。しかし、そんな彼を内心強く憎んでいたトリスターナは、偶然に街で出会った若き画家のオラーシオに心惹かれるようになり….


ルイス・ブニュエルが「ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年)」の前に公開した作品。

オラーシオ(フランコ・ネロ)にすべてを打ち明けたトリスターナは、彼と駆落ちを実行するが、それから2年後、膝にできた悪性腫瘍のために死を覚悟した彼女はロペの元へと戻って来る。幸い、手術によって彼女は一命を取り留めるが、片足を失った彼女はもはや以前の純真なトリスターナではなかった、っていうお話し。

正直、予想していたよりは随分とストレートな男女の愛憎劇であり、トリスターナの見る悪夢として、教会の鐘にぶら下がったロペの生首のイメージが何度か出てくる以外は、映像的にも特に驚くような演出は見られない。まあ、少々物足りなくはあるものの、あまり頭を悩ませないで済んだため、ホッとした部分があることも否定できない。

原題も「トリスターナ」であり、クレジットでも最初にドヌーヴの名前が出てくる訳であるが、本作の真の主人公は、老いの醜さと弱さを見事に演じて見せたロペ役のフェルナンド・レイの方だろう。前半ではトリスターナを精神的にも肉体的にも完全に支配していたロペであるが、歳をとるに従い、その立場が徐々に逆転していく様はなかなか興味深い。

まあ、親の遺産を食い潰すだけで、生涯定職にもつかず、“自由だ、名誉だ”と口では偉そうなことを言いながら、実行が全く伴わないという最低なキャラではあるが、娘として、妻としてトリスターナを思うロペの気持ちは本物だった訳あり、彼女の方でもそれに気付いていたからこそ、オラーシオと別れて彼の元へ帰って来たのだろう。

ということで、ブニュエルとしてはかえって少々異色の作品だったのかもしれないが、こういう作品で上映時間が99分というのはちょっと短すぎであり、展開を急ぎ過ぎたため、最後の方では作品中の時間の経過が良く理解できなかった。さて、次は彼の遺作である「欲望のあいまいな対象(1977年)」を見てみる予定です。