たそがれの維納

1934年作品
監督 ヴィリ・フォルスト 出演 アドルフ・ヴォールブリュック、パウラ・ヴェッセリー
(あらすじ)
20世紀初頭のウィーン。プレイボーイと噂される人気画家ハイデネック(アドルフ・ヴォールブリュック)は、舞踏会で知り合った人妻をモデルに仮面をつけたヌードの絵を描く。しかし、手違いによりその絵が新聞に掲載されてしまったため、その絵のモデル探しにウィーン中は大騒ぎ….


「未完成交響楽(1933年)」に次ぐヴィリ・フォルストの第二回監督作品。

ハイデネックは、自分の妻がモデルなのではないかと疑っている男からモデルの名前を問われ、思わずデタラメな名前(=ドゥーア)を教えてしまう。ところが、それと同じ名前の持ち主がウィーン市内に実在していたため、問題はその彼女を巻き込んでさらに複雑化していく。

6人の男女を絡めたストーリーは十分に複雑で、かつ、面白く、ストーリー的にはやや単調であった「未完成交響楽」の翌年に撮られた作品とは思えない程の素晴らしさ。チンチラのマフやシガレットケース兼用の拳銃といった小物の使い方も巧みであり、完成度という点でわずかに「ブルグ劇場(1937年)」に及ばないかもしれないが、傑作の部類に入ることはまず間違いない。

特に、プレイボーイではあるが心のどこかに誠実さ(若しくはそれへの憧れ?)を持ち続けているというハイデネックの人物設定は、男の俺から見ても十分に魅力的。見ているときは気付かなかったけれど、彼に扮しているアドルフ・ヴォールブリュックという俳優さんは、「赤い靴(1948年)」のレルモントフ団長役なんかをやったアントン・ウォルブルックと同一人物なんだね。

一方、そんな彼のハートを射止めるドゥーア嬢に扮するパウラ・ヴェッセリーの方は、スタイルは良くないし、イメージ的にはどこかジャガイモっぽいんだけれど、これがストーリーが進むにつれて本当にどんどん輝いて見えてくる。このへんはお約束とはいえやっぱり大したもんです。

ということで、本日のヴィリ・フォルスト特集は2戦して1勝1分というところ。昔のドイツ(又はオーストリア)映画というと、我が国では相当マイナーな分野に属するためになかなか鑑賞する機会は得られないが、こういった優れた映画がまだまだ残されているのかも知れないね。