未完成交響楽

1933年作品
監督 ヴィリ・フォルスト 出演 ハンス・ヤーライ、マルタ・エゲルト
(あらすじ)
19世紀初頭のウィーン。貧しい音楽家シューベルト(ハンス・ヤーライ)に、社交界でも有名なある侯爵婦人邸で催される音楽の夕に出演するチャンスが巡ってくる。しかし、彼の演奏が佳境に入ろうとした正にそのとき、突然、若い女性(マルタ・エゲルト)の笑声が室内に響き渡り、プライドを傷つけられたシューベルトは逃げるようにその場を立ち去ってしまう….


八月の狂詩曲(1991年)」からの「野ばら」つながりという訳ではないんだけど。

音楽の夕の失敗で落ち込んでいるシューベルトの元に、ハンガリーの伯爵から娘の音楽の家庭教師にという話が舞い込む。彼がその伯爵家を訪ねてみると、現れたその娘のカロリーネというのは音楽の夕で彼の演奏をブチ壊したあの女。しかし、二人の間にはいつしか愛が芽生えて・・・。

作品の冒頭、生活費に困ったシューベルトがギターを質入れするというエピソードが出てくるんだけれど、その質屋の娘であるエミー嬢がとても健気で可愛らしい。俺はてっきり彼女が本作のヒロインになるもんだとばかり思っていたんで、シューベルトが彼女のことを忘れてカロリーネの元へ走ってしまうというその後の展開については、正直いって不満。

まあ、そのせいばかりではないんだろうけど、見る前の期待が大き過ぎたせいもあって、残念ながら見終わっての印象は大満足とはいかなかった。フォルストにとってこれが監督デビュー作ということ考慮すればある程度やむを得ないのかもしれないが、前に見た「ブルグ劇場(1937年)」に比べるとストーリーは平板だし、カロリーネがシューベルトに惹かれる理由も良く解らない。

おそらく、本作がこれまで多くの人々に支持されてきたのは、ストーリーというよりも、作中で紹介されるシューベルトの名曲の魅力によるところが大きかったのだろう。小学校で黒板を使って算数を教えていた彼が途中から「野ばら」の作曲を始めてしまったり、レッスン中のカロリーネが突然「白鳥の歌」を歌い出すといったシーンは、実際、とても面白かった。

ということで、本作に出てくるシューベルトは、風貌こそ教科書に載っていた肖像画に似ているものの、健気な少女に冷たくした挙句、恋にのぼせ上って貴族の娘との結婚を夢見るといったその性向は、俺が持っていた彼のナイーブなイメージにはちょっと合いませんでした。