にごりえ

1953年作品
監督 今井正 出演 淡島千景久我美子
(あらすじ)
若くて器量の良い酌婦のお力(淡島千景)は、「菊の井」の一枚看板。彼女に入れ込んだせいで落ちぶれてしまった元蒲団屋の源七が今でもちょくちょく訪ねて来るが、彼女は一向に取り合おうとしない。その頃、彼女は結城と名乗る客と知り合い、好意をいだくものの、何故かどんなに水を向けられても、彼女は自分の身の上を彼に打ち明けようとはしなかった….


今井正が、「十三夜」、「大つごもり」、「にごりえ」という樋口一葉の小説3編を映画化したオムニバス映画。

いずれも女性が主役の作品であり、丹阿弥谷津子(「十三夜」のせき)、久我美子(「大つごもり」のみね)、そして淡島千景(「にごりえ」のお力)といったお美しい女優さんたちが見る者の目を楽しませてくれる訳であるが、内容的には社会のしがらみの犠牲となって苦しんでいる女性の姿が描かれている。

3編の中では、出演者が豪華なこともあって、本作の題名にもなっている「にごりえ」が一番印象に残る。主演の淡島千景の他、宮口精二(源七)、山村聡(結城)、杉村春子(源七の妻)、賀原夏子(「菊の井」の酌婦)という多彩な出演者たちによる演技合戦は、もう、それだけで十分面白いが、ここでも宮口や山村といった男優陣より、淡島、杉村の女優陣による見せ場のほうが多くなっている。

オムニバス作品ということで、原作をできるだけ忠実に再現するだけで手いっぱいだったようであり、個々の作品だけを取り上げてみると、やや面白みに欠け、時間的にも物足り無さを感じないでも無いが、その気真面目で誠実そうな演出ぶりには好感が持てるし、全体的には、十分に合格点を差し上げられる出来だと思う。

ということで、三人のヒロインの中では、やはり淡島千景の美しさが突出しているものの、若き日の丹阿弥谷津子がとても可愛らしかったのが意外な拾いもの。できれば、彼女の出演した「十三夜」のイメージを膨らませていただき、一本の作品としてじっくりと見てみたかったところです。