風船

1956年作品
監督 川島雄三 出演 森雅之三橋達也
(あらすじ)
村上春樹森雅之)は、画家になろうという若い頃の夢を捨て、今は写真機メーカーの社長として成功しており、彼の長男の圭吉(三橋達也)も若くしてその会社の部長として働いていた。圭吉には久美子という戦争未亡人の愛人がいたが、知り合いからシャンソン歌手のミキ子を紹介され、彼の気持ちは次第に久美子から離れていった….


川島雄三が「愛のお荷物(1955年)」の翌年に公開した作品。やはり三橋達也が出演しているんで、軽妙なコメディを期待して見たんだけど、こっちは結構シリアスな内容だった。

彼の演じる圭吉は親の七光りで部長になったような人物であり、人を人と思わないようなちょっと傲慢なところがある。彼に捨てられた久美子は、結局、自殺してしまうんだけど、そんな彼女の気持ちを全く理解しようとしない圭吉の姿を見て、父親の春樹は仕事にかまけて家庭を顧みることの少なかったこれまでの生活を深く反省し、自分の生き方を変えることを決意する・・・

まあ、結末だけを言うとこんな内容の作品なんだけど、大佛次郎原作のストーリーは登場人物も多く、当時のやや退廃的な風俗の紹介を織り交ぜながら結構複雑に展開していく。途中から京都に住む姉弟が登場するなど、見ていてちょっと混乱するような部分もあるんだけれど、これは川島と今村昌平の手になる脚本の出来を責めるより、むしろこの複雑なストーリーを良く110分の作品にまとめ上げたと褒めるべきなんだろう。

そして、さらに本作に花を添えているのが、新珠三千代北原三枝左幸子、そして芦川いづみという豪華女優陣であり、特に圭吉の妹役に扮する芦川いづみ(=公開当時21歳!)の可憐さ、清純さはまったく素晴らしい。幼小の頃に患った小児麻痺の後遺症で片腕(と頭?)が不自由という設定であるが、そんなことから他人の心の痛みにも敏感になった彼女の存在は、この作品の大きな救いになっている。

ということで、内容的には俺のあまり得意でない分野の作品ではあったが、ドロドロした心理描写はむしろ控えめとなっており、このへんに川島雄三のセンスの良さが感じられた。今回は、もう一本、「洲崎パラダイス 赤信号(1956年)」という作品がDVD化されているんだけど、そっちを見るのも楽しみになりました。