暖簾

1958年作品
監督 川島雄三 出演 森繁久弥山田五十鈴
(あらすじ)
ふとした縁で大阪の老舗昆布屋である浪花屋の丁稚になった吾平(森繁久弥)は、主人の利兵衛からの厳しい商人教育に耐え、ようやく暖簾分けを許される。利兵衛の言い付けで、意中の人であったお松と別れ、気の進まないまま彼の姪である千代(山田五十鈴)と結婚した吾平だったが、彼女の気丈な一面を知って心を入れ替え、夫婦して店を大きくしようと懸命な努力を重ねる….


川島雄三が「幕末太陽傳(1957年)」の翌年に発表した作品。

淡路島から大阪へやってきた少年が浪花屋の丁稚になり、その後、独立して自分の昆布屋を大きくしていくという主人公吾平の半生を描いており、上映時間は123分とちょっと長め。時代も、戦前から戦中、戦後にわたっており、戦後になって活躍する吾平の次男の孝平も森繁久弥が二役で演じている。

脚本は、そんな吾平が体験した様々なエピソードの中から特に印象深いものをいくつか拾い出し、それを時系列的に並べるような構成になっており、スピーディーな反面、各エピソードの掘下げがやや浅いところが気に掛かるのだが、主演の二人をはじめ、中村雁治郎(=利兵衛)、浪花千栄子(=その妻)、乙羽信子(=お松)といった豪華な出演陣が、その弱点を十分に補ってくれている。

中でも素晴らしいのが千代役の山田五十鈴であり、吾平とお松とが相思相愛の仲であることに薄々気付きながら、吾平の女房役を見事に務める気丈さと、それでも時々はお松にやきもちを焼いてしまう可愛らしさ、さらには、我が子、孝平の結婚相手にお松の娘を勧めるという(ちょっと複雑な)優しさが絡み合った演技は誠にお見事。ただし、ドライな孝平は、親の勧め無視して自分の好きな人を選ぶことによって、悲劇の連鎖を断ち切るんだけどね。

そのお松の娘、静子役でチラッと顔を見せてくれるのが扇千景であり、その美人ぶりはちょっともの凄いのだが、後の猛女ぶりを知っている者にとっては、悪夢以外の何ものでもないあたりが大変残念だった。

ということで、原作がしっかりしているせいで、最後まで破綻することなくきれいにまとめられている印象であるが、川島雄三ファンとしてはその破綻のなさがちょっぴり不満。まあ、“大作”ということで、彼も真面目に仕事をしたのだろうが、もう少し遊びがあっても良かったと思います。