ペレ

1987年作品
監督 ビレ・アウグスト 出演 ペレ・ヴェネゴー、マックス・フォン・シドー
(あらすじ)
19世紀の終わりの頃のデンマーク。年老いた農夫のラッセマックス・フォン・シドー)は、その幼い息子のペレ(ペレ・ヴェネゴー)を連れ、人間らしい暮らしを夢見てスウェーデンから移民してくる。しかし、デンマークで待ち受けていたのは、家畜のように過酷な労働の日々とスウェーデン移民に対する激しい差別であり、彼等の抱くささやかな希望は次々に壊されていく….


カンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いたデンマークスウェーデンの合作映画。

栄養状態が悪いせいもあるのだろうが、ラッセの外見は70歳近い老人のようであり、日本でいえば小学校の4、5年生くらいと思われるペレの祖父にしか見えない。スウェーデンにいるときに母親を亡くしているペレにとって、地球上で頼りに出来るのはこの父親一人しかいないのだが、寄る年波には勝てないということで、見ていてもう頼り無いったらありゃしない。

まあ、このことはペレにとっても悲劇なんだろうが、息子を守ることが出来ない父親の無念さはおそらくそれ以上。しかも、このラッセ老人、あちらの方はまだお盛んらしく、いまだに“後添え募集中”というのがいっそう哀れを誘うところであり、このような悲惨な状況をベースにしてストーリーは展開していく。

上映時間150分の大作ということで、当然、このラッセ親子以外の登場人物に関するエピソードも豊富に登場するのだが、そのいずれもが不幸な結末に終わってしまうため、見続けるだけでも精神的な負担は大。しかし、そんな重〜い内容にもかかわらず、観客を最後まで座席に括りつけておくだけの魅力を有しているのは凄いことであり、おそらく、こういうのをストーリーテリングの妙というのだろう。

また、本作が、差別をした側とされた側との合作によって製作されている点も高く評価されるべきところ。我が国でも、戦前・戦時中の朝鮮人労働者や従軍慰安婦の問題が取り沙汰されているが、仮に彼等が本作のラッセ親子同様、自ら望んでその境遇に身を置いたのだとしても、そこで行われた差別の不当性は決して否定できるものではなく、勇気ある映画人の手によって、我が国でもこのような作品が生み出されることを強く希望する。

ということで、ラストは、年老いた父親を農場に残し、ペレが一人で何処かに旅立つところで終わるのだが、それは決してハッピーエンドとはいえない厳しい結末。“勝利者ペレ”という本作の原題は、あの後の彼の成功を予言していると考えて良いのでしょうか。