フライト

2012年作品
監督 ロバート・ゼメキス 出演 デンゼル・ワシントンドン・チードル
(あらすじ)
ベテラン・パイロットのウィップ・ウィトカー(デンゼル・ワシントン)が機長を務めるアトランタ行きの旅客機が空中で突如制御不能に陥り、急降下を始める。あわや墜落かと思われたとき、ウィトカーは驚異的な操縦テクニックを駆使して機体を草原に不時着させることに成功。マスコミからは多くの乗客の命を救ったヒーローとして賞賛されるが、検査の結果、彼の血液中からアルコールが検出される….


デンゼル・ワシントンの主演によるヒューマン・ドラマ。

事故調査委員会において、事故の原因がウィトカー機長の飲酒にあると判断されれば、彼には過失致死罪が適用されて終身刑は免れない、ということになるのだが、“彼が搭乗前に酒とコカインを摂取していること”、しかし、“事故の原因は機体の物理的なトラブルにあること”は観客にとって最初から明らかであり、ヒュー・ラング(ドン・チードル)という敏腕弁護士は登場するものの、裁判劇的な展開は乏しい。

代わりに本作のテーマになるのは、自分がアルコール依存症であるという事実を認めることが出来ない、ウィトカー機長の人間的な“弱さ”であり、具体的には、ラング弁護士の働きによって血液検査の結果を“無かったこと”にしてもらった彼が、“飲酒していない”という嘘を最後までつき通せるのか、ということがストーリーの焦点になる。

結果的には、事故調査委員会で飲酒の事実を白状してしまうため、主人公は懲役5年の判決を受けることになるのだが、このことは、同時に、彼が自分がアルコール依存症であるという事実をようやく受け入れることが出来た、ということを意味しており、ラストにはむしろハッピーエンド的な雰囲気が漂っている。

ロバート・ゼメキスによる冒頭の飛行機事故シーンの描写は迫力満点なのだが、その印象が強烈すぎるため、どういうジャンルの映画なのか理解するのに手間取ってしまうのがちょっとした皮肉。しかし、ラストまで見てみればなかなか良いストーリーに仕上がっており、本作の脚本がアカデミー賞にノミネートされたのも十分頷ける。

ということで、ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」や「ギミー・シェルター」といった60年代後半の名曲がBGMに使われているのも個人的には高評価。「フィーリン・オールライト」がジョー・コッカー・バージョンだったのを少々残念に思っていたところ、エンディングでトラフィック・バージョンをたっぷり聴かせてくれたのも、ニクい演出でした。