逆まわりの世界

フィリップ・K. ディックが1967年に発表したSF作品。

ホバート位相により時間が逆行する世界”という設定には大いに興味があり、初版で購入してからの30年間、何度となく手に取ってはみたのだが、タバコの吸殻がだんだん長くなったり、髯を顎に貼り付けたりといった描写があまりにも馬鹿馬鹿しくて、いつも10ページも読み進まないうちに挫折していた。

そこで窮余の一策ということで、先日の北アルプス縦走に本書を持参。他に印刷物がないという極限状態で何度目かの挑戦を試みたところ、序盤の“馬鹿馬鹿しさ”を乗り越えて何とか本書の世界に入り込むことに成功し、本日、無事に読了することが出来た。

まあ、“時間が逆行する”といっても、決して原因と結果が入れ替わる訳ではなく、作者が必要としたのは“一度死んだ人間が蘇る”という設定だけ。それなら、タバコや髯等に関する瑣末な描写は省略しても良さそうなものだが、それが出来ないところが彼の“持ち味”なんだろう。傑作とはいえないが、後半における主人公の思いには色々と共感できるところがあった。

ということで、最後まで読み終えていないディック作品は、本書以外にもまだ2、3冊本棚に眠っている筈であり、まあ、今後も気長にトライし続けることに致しましょう。