赤い影

1973年作品
監督 ニコラス・ローグ 出演 ドナルド・サザーランドジュリー・クリスティ
(あらすじ)
イギリスの田舎で暮らしていたジョン(ドナルド・サザーランド)とローラ(ジュリー・クリスティ)のバクスター夫妻は、不慮の事故により娘のクリスティーンを亡くしてしまう。その心の傷も癒えぬまま、教会の修復工事の監督のためにヴェニスへ移り住んだ二人は、そこで出会った霊感があるという盲目の中年女性ヘザーから、二人の傍らに亡くなったクリスティーンの姿が見えると告げられる….


ニコラス・ローグの代表作といわれるショッカー映画。

ヒッチコックの「レベッカ(1940年)」や「鳥(1963年)」の原作者として知られるダフネ・デュ・モーリアの短編小説「Don’t Look Now」がベースになっているらしいのだが、正直、ストーリー自体に大したヒネリがある訳ではない。確かに、自分に予知能力があることを自覚しないまま未来を見てしまう、というアイデアはとても面白いと思うが、本作のキモはそこではなくて、赤いフードの“少女”が振り向くあの一瞬にある。

ウェンディ&ヘザー姉妹の不気味な高笑いや教会修復中における突然の事故、さらにはイギリスに帰った筈のローラがその姉妹と一緒にいるところを目撃されるといった、後のデヴィッド・リンチ作品を思わせるミステリアスな展開は、ジョンを取り巻くオカルトチックな陰謀の存在を強く予感させるのだが、それらはすべてあの一瞬のための前フリに過ぎない。

まあ、良く出来たお話しが好みという個人的な嗜好からすると、正直、ちょっぴり物足りなくはあるのだが、逆に、あれだけのネタでもって、観客を飽きさせることなく2時間弱の上映時間を乗り切ってしまうニコラス・ローグの演出力の方に驚かされてしまうため、そう大きな不満は湧いてこない。

赤いレインコートを身に着けたクリスティーンが池に落ちて溺れてしまうという、美しくも悲しい冒頭のシーンから始まり、“赤”や“水”、“光”といった映像のキーワードでもって、短いシーンを自由連想法的に繋げていくという手法はなかなか印象的であり、本作を単なるショッカー映画以上のものにしている。

ということで、もう一つの重要な要素は、物語の舞台となる初冬のヴェニス。バカンスシーズンが終わった水の都の持つ一抹の寂しさは、本作のミステリアスな雰囲気作りに大いに役立っていました。