八月の鯨

1987年作品
監督 リンゼイ・アンダーソン 出演 リリアン・ギッシュベティ・デイヴィス
(あらすじ)
メイン州の小島に建つ古びた別荘には、例年どおり、リビー(ベティ・デイヴィス)とサラ(リリアン・ギッシュ)の年老いた姉妹が避暑のために訪れていた。姉のリビーは白内障のために両目の視力を失っており、妹のサラが食事や身の回りの世話をしていたが、リビーの我侭な性格は年々悪化する一途であり、老化による体の衰えのせいもあってか、最近は自らの死を口にするようになる….


リリアン・ギッシュベティ・デイヴィスという二人の超ベテランが主演する老人映画。

ストーリー的には誠に他愛のない姉妹喧嘩の顛末を描いた作品であるが、その発端となるのはサラが別荘のリビングに造りたいと思っている“見晴らし窓”。彼女が少女だった頃、夏になると別荘の前の海に鯨が現れたらしく、それをもう一度見てみたいというのが彼女の願いなのだが、気難し屋のリビーは“もう年を取ったのだから新しいことは必要ない”と言って、サラの計画に反対する。

まあ、目の見えないリビーにとって、見晴らし窓を造るメリットは全くない訳であり、むしろそれによってプライドを傷つけられたという可能性もあるのだが、反対のより根本的な原因は、彼女が将来への希望を持てなくなってしまっていること。ラストでは、ようやく見晴らし窓を造ることに同意したリビーが、サラの希望の象徴である八月の鯨を“私も見たい”といって幕を閉じるのだが、この二人を取り巻く深い孤独感、孤立感を考えると、とてもじゃないが、これでハッピーエンドだとは思えない。

勿論、海辺に建つ別荘での静かな暮らしぶりは決して悪いものではないし、妻に先立たれたばかりの老紳士を別荘に招待するといった微笑ましいエピソードなんかも登場するため、陰鬱な雰囲気は微塵もないのだが、とうの昔に亡くなった配偶者の遺髪を顔に押し当てて自らを慰めるシーンなどは胸を締め付けられるばかりであり、“老い”の如何ともし難い冷酷さを見事に表現している。

ということで、公開当時、姉役のベティ・デイヴィスは79歳であり、この2年後には本当にこの世を去ってしまう彼女に往時の面影は乏しいのだが、まあ、自らの老いさらばえた姿を堂々とスクリーン上に晒して見せるあたりは彼女の面目躍如たるもの。また、彼女より15歳年上であるリリアン・ギッシュの驚異的な可愛らしさも、とても印象的でした。