ゴッホ

1990年作品
監督 ロバート・アルトマン 出演 ティム・ロス、ポール・リス
(あらすじ)
牧師になることを諦めたヴィンセント・ヴァン・ゴッホティム・ロス)は、画家を志すことを弟のテオ(ポール・リス)に告げる。その後、画商として働くテオの経済的援助を受け、一心不乱に絵を描き続けるヴィンセントだったが、大衆からは全く評価されず、同棲していた女性とも別れた彼は、友人のゴーギャンを誘って、プロヴァンスへ転居することを思い立つ….


今週のアルトマン作品は、あのヴィンセント・ヴァン・ゴッホの伝記映画。

ゴッホの伝記映画としては、ヴィンセント・ミネリが監督し、カーク・ダグラスが主演した「炎の人ゴッホ(1956年)」が有名であり、俺も大昔にTVで放映されたのを見た覚えがある。ヴィンセント・ミネリらしい、とても映像の美しい作品だったと記憶しているが、公開されたのは俺の生まれる前だったんだなあ。

さて、それから30数年後に公開された本作は、同じ伝記映画でも説明的な描写は極力抑えられており、あまり重要とは思えないようなエピソードを含め、ヴィンセントとテオの兄弟の断片的な日常が淡々と綴られていく。

まあ、有名な耳切り事件を含め、ヴィンセントの破滅的な生き方に関しては大方の予想どおりであるが、少々意外だったのは、弟のテオの方もそれなりに“感情的”な性格の持ち主として描かれていること。これまでは、奔放な兄を暖かく見守る誠実な実務家っていうのが俺の抱いていたイメージだったのだが、本作のテオは梅毒を気に病むしがないサラリーマンであり、それだけに、兄を思いやる彼の一途さが一層いじらしい。

画商だったという話は聞いていたが、自ら画廊を経営している訳ではなく、あくまでも雇われ店長であり、安い給料の中から必死に兄を支えようとするのだが、ヴィンセントの方は、経済的に弟に依存していることを悪びれる様子もなく、自分の絵が売れないことを弟のセールス不足のせいにする始末。しかし、彼らの仲の良さは最後まで決して変わることがなく、そんなところが本作の大きな救いになっている。

ということで、本作が公開されたのと同じ年に黒澤の「夢(1990年)」も公開されている訳であり、まあ、単なる偶然に過ぎないのだろうが、東西の両巨匠が同じ時期にあの黄色い麦畑に惹かれていたというのは、ちょっと面白いと思いました。