審判

例によって、「変身」しか読んだことのなかったフランツ・カフカの長編小説。

主人公のヨーゼフ・Kが理由も分からないまま逮捕され、裁判にかけられてしまう不条理劇、という程度の予備知識はあったのだが、実際に読んでみて一番意外だったのは本書で描かれる訴訟手続きの異常さの方。

訴訟というのは、数ある公的な諸手続きの中でも最も権威があり、厳格で公正なものというのが一般的なイメージだと思うが、本書で描かれるそれは卑俗で曖昧なのにもかかわらず独善的であり、それに従事している職員も揃っていかがわしそうな人間ばかり。勿論、被告となった人間も屈辱的な役回りを演じることが求められる。

まあ、本作で描かれる“訴訟”が一般的な意味での訴訟なのか、それとも何らかの手続なり制度を揶揄するためのパロディとして採用されたものなのか、残念ながら良く分からなかったのだが、不思議な魅力を有する作品であることだけは間違いない。もう一冊の長編である「城」の方もいずれ読んでみようと思う。

ということで、本書が、作者の死後に発表された未完の作品であることは、今回読んでみて初めて知った訳であるが、幸い、結末はきちんと書かれているため、宙ぶらりんな気持ちにさせられる恐れはない。むしろ、あの結末に至るまでの主人公の意識の変化を勝手に想像する楽しみを与えて貰った、っていう感じです。