痴人の愛

1934年作品
監督 ジョン・クロムウェル 出演 レスリー・ハワード、ベティ・デイヴィス
(あらすじ)
片足に障害を持つフィリップ(レスリー・ハワード)は、自らの才能に限界を感じ、画家になる夢を断念。人の役に立つ医師になろうと思い立ってロンドンの医学校に通うようになるが、同級生に誘われて入ったカフェで働いていたウェイトレスのミルドレッド(ベティ・デイヴィス)を一目見るなり、彼女に夢中になってしまう。しかし、美人で気の多い彼女に言い寄ってくる男は彼一人ではなく….


サマセット・モームの原作によるベティ・デイヴィス出世作

フィリップの家庭環境は最後まで不明なままなのだが、決して恵まれているという訳では無さそうであり、一人でアパート住まいをしながら、叔父さんからの仕送りによって医学校に通っている。派手好きのミルドレッドが、そんな貧乏学生からのプロポーズにOKを出す筈もなく、大方の予想どおり彼はあっさりと振られてしまう。

しかし、ミルドレッドの恋路の方もなかなか順調にはいかないようであり、惚れた男に騙される度にフィリップのもとへ舞い戻って来る。邦題にある“痴人”というのは、そんな女への未練を断ち切ることができないフィリップのことなんだろうと思って見ていたのだが、優秀な彼は“学習”によって次第に彼女との関係に一定の距離を置くようになり、結局、最終的に破滅してしまうのはミルドレッドの方だった。

まあ、そんなミルドレッドは、一般的に“悪女”の典型のように考えられているらしく、確かに、障碍者というフィリップ君の弱みにつけこんで、彼を何かあったときの安全パイのように扱う態度は決して褒められたものではない。しかし、そんな彼女も彼以外の男には簡単に騙されてしまう訳であり、実際はちょっと愚かなだけの普通の女の子だったのかもしれないなあ。

そんな不運なヒロインを熱演しているベティ・デイヴィスは公開当時26歳であり、ウェイトレスの制服を身にまとってスクリーンに登場する彼女はとても可愛らしい。それに対し、後半の体調を崩してからの悲惨なお姿は、これが同一人物かと見まがうばかりであり、残念ながら(?)こっちの方が女優としてのその後の方向性を決定してしまったようである。

ということで、なかなか「ラインの監視(1943年)」のような作品には巡り合えないものの、“悪女”を演じているときの彼女も、やっぱりとても魅力的。少しずつではあるが、これからも彼女の出演作品を意識して見続けていきたいと思います。