明日は来らず

1937年作品
監督 レオ・マッケリー 出演 ヴィクター・ムーア、ボーラ・ボンディ
(あらすじ)
結婚して50年になるバークレー(ヴィクター・ムーア)とルーシー(ボーラ・ボンディ)のクーパー夫妻のもとへ、久しぶりに4人の子供たち(=1人欠席)が集まってくる。しかし、父親のバークレーが明らかにしたのは、滞った借金のカタとして今の住まいを銀行に取られてしまうという話であり、急遽、長男のジョージが母親のルーシーを、次女のコーラが父親のバークレーを引き取ることになったのだが….


小津の「東京物語(1953年)」に多大なる影響を与えたというレオ・マッケリーの名作。

当初の予定では、ゆくゆくは比較的広い屋敷に住んでいるらしい長女のネリーが両親をまとめて引き取ることになっていたのだが、当然、彼女の夫は義父母との同居に反対であり、バークレーとルーシーの別居状態が解消される見込みは一向に立ちそうもない。ジョージやコーラの家族も、決して彼等を邪魔にしている訳ではないのだが、ライフスタイルの違いに起因するお互いの“気まずさ”は如何ともし難いのだろう。

そんな具合に、前半はバークレーとルーシーそれぞれの寂しそうな別居生活の様子が交互に紹介されるのだが、本作の見所は、ルーシーのたっての願いにより、ようやく二人がニューヨークで束の間の再会を果たすところからであり、この老夫婦のデートという普通なら見向きもされないようなエピソードが驚くほどロマンチックに描かれている。

このニューヨークという土地は、二人が50年前の新婚旅行のときに訪れた場所であり、そのときに泊まったホテルのバーでカクテルを飲んだり、ダンスをしたりしながらとても幸せそうに往事を語り合うのだが、その数時間後には、おそらく二度と会うことのできない別れが待っていることを二人とも理解している訳であり、そのせつなさといったら、凡百の恋愛映画を遥かに凌駕していると言って良い。

ルーシー役のボーラ・ボンディという女優さんは、「スミス都へ行く(1939年)」や「素晴らしき哉、人生!(1946年)」でジェームズ・スチュワート扮する主人公の母親役を演じていた人。本作公開当時の実年齢はまだ49歳なのだが、その優れた演技力で老婦人らしい上品な恥じらいを素敵に演じてくれていた。

ということで、この老夫婦がニューヨークで出会う人々が、皆さん、とても親切なのだが、それは彼等の好意の裏側に他人であるが故の“無責任さ”が存在するからであり、小津の「東京物語」で原節子扮する戦死した息子の嫁が口にする“私、ずるいんです”という台詞には、そういった意味合いも込められていたのかもしれません。