欲望のあいまいな対象

1977年作品
監督 ルイス・ブニュエル 出演 フェルナンド・レイキャロル・ブーケ
(あらすじ)
スペインのセビリア。パリ行きの列車に乗り込んだ老紳士のマチュー・ファベール(フェルナンド・レイ)は、彼を追いかけて来た若い女に対し、頭からバケツの水をぶちまける。マチューと同じコンパートメントになった乗客たちは、この光景を見て驚くが、彼はコンチータキャロル・ブーケ)という名前のその娘から受けた酷い仕打ちの数々を彼等に語り始める….


ルイス・ブニュエル監督の遺作。

元々、コンチータはマチューの屋敷に新たに雇われた小間使いだった訳だが、さっそく好色な彼から言い寄られた翌朝、彼女は仕事を辞めて姿を消してしまう。その後、偶然に(?)再会した彼女とイイところまで行くのだが、結局、寸前で思いは遂げられず、それからはいつもこのパターンの繰り返し。

この“繰返し”以外にも、古き良き(?)ブルジョワ階級の没落を暗示するような正体不明のテロのシーンが繰り返し挿入される等、「ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年)」と共通するテーマを取り扱っている訳であるが、老人の満たされぬ思いを綴ったストーリーはもっと直截的であり、その分、コメディ色も強くなっている。

まあ、本作公開当時、マチュー役のフェルナンド・レイは60歳、監督のブニュエルに至っては77歳というお年だったにもかかわらず、両者ともに全く枯れた様子が見られないのには感心するばかりであり、どんなにひどい仕打ちを受けてもコンチータを愛し続けるというマチューの姿からは、マゾヒズムの極致的な雰囲気すら漂ってくる。

また、そのヒロインのコンチータキャロル・ブーケとアンヘラ・モリーナという二人の女優さんが演じており、清楚なときのコンチータは前者が、お色気が必要なときは後者が担当していたらしいのだが、恥ずかしながら、見ているときにはこのカラクリに全く気付かなかった。

ということで、テロリストによる爆破シーンで終わるというラストは、ブニュエル自身、本作が遺作になることを予期していたかのような見事なエンディングであり、そんなところも含めて大変面白い作品だった。次は「小間使の日記(1963年)」を見てみようと思います。