1974年作品
監督 ルイス・ブニュエル 出演 ジャン=クロード・ブリアリ、モニカ・ヴィッティ
(あらすじ)
ナポレオン占領下のスペインの物語を読んでいた子守の知らぬ間に、少女は公園である紳士から数枚の写真を手渡されるが、家に帰って母親(モニカ・ヴィッティ)に見せると、それは何とも“卑猥”な観光写真だった。一方、夫のフーコー氏(ジャン・クロード・ブリアリ)は夜な夜な不可解な現象に悩まされており、医師に相談に行くが全く相手にされず、そこで働いていた看護師は….
ブニュエルが「ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年)」の2年後に発表した作品。
19世紀初頭、ナポレオン軍に抵抗したスペイン人たちが銃殺されるシーンから始まるのだが、それは家政婦が公園で子守りをしながら読んでいた本の中のお話し。映画の舞台はすぐに現代のパリへと移ってしまい、家政婦→彼女が子守りをしていた少女→その母親→その夫→彼が相談した医師→そこで働く看護師→彼女と同じ宿に泊まった客・・・といった具合に主人公が次々と入れ替わりながら、一見とりとめのないようなストーリーが続いていく。
本作の採用している手法が、フロイトの自由連想法に着想を得たシュールレアリスムの代表的な手法の一つであることは言うまでもなく、問題はその中身の方なのだが、これが意外におとなしめ。普通の観光写真が卑猥だったり、食べ物の話が下品だったりという価値観の転倒を扱ったエピソードが幾つか含まれているものの、雰囲気的にはお笑い番組のコントみたいなものが多く、あまり不条理感のようなものは感じられない。
映像的にも特筆するようなショッキングなシーンは登場せず、シュールレアリスム系の作品としてはむしろ取っ付き易いと言って良いくらい。作品の背景に観客の笑い声を流せば、モンティ・パイソン風のコメディ映画として楽しむことも十分可能だろうと思われる。
まあ、最初と最後の方で描かれる“自由くたばれ!”という叫び声の中に政治的な意図が感じられないでもないが、(最初にゴヤの「1808年5月3日、プリンシペ・ピオの丘での銃殺」が出てくることからも判るとおり)ここで非難されているのはフランス革命に由来する“平等・博愛”とセットになった“自由”であり、この辺に、どこか貴族主義的な嗜好を匂わせるブニュエル自信の考えが反映しているのかも知れない。
ということで、結局、これで今回DVDが発売されたブニュエル作品は全部見てしまった訳であるが、案外親しみやすい作品が多かったのは嬉しい誤算。今度、彼のメキシコ時代の作品も見てみたいと思います。