忘れられた人々

1950年作品
監督 ルイス・ブニュエル 出演 ロベルト・コボ、アルフォンソ・メヒア
(あらすじ)
貧しい身なりの少年たちがたむろするメキシコシティのスラム街の一角。そんなところに、感化院を脱走してきた彼等の兄貴分ハイボ(ロベルト・コボ)が舞い戻ってくる。真面目なフリアンが自分を警察に密告したと思い込んでいるハイボは、弟分のペドロ(アルフォンソ・メヒア)を使ってフリアンをおびきだし、仕返しをしようとするが、勢いあまって彼を撲殺してしまう….


ルイス・ブニュエルカンヌ国際映画祭の監督賞に輝いたメキシコ時代の代表作。

本作のもう一人の主人公であるペドロは、日本で言えば小学校の高学年くらいの子供であり、まだまだ母親に甘えていたいお年頃。しかし、彼の家は母子家庭であり、仕事や彼とは父親の違う幼い弟妹たちの世話に忙殺されている母親には、ペドロのことを気に掛けるような余裕は全く無く、その寂しさを紛らわせるために不良仲間たちと付き合っていた。

運悪く殺人の片棒を担ぐハメになってしまったペドロ少年は、今までの悪行を深く反省し、母親の愛情を取り戻すために真面目に働こうとするのだが、彼に付きまとうハイボに邪魔をされ、彼の努力はことごとく失敗。母親からも冷たく突き放されてしまい、最後はハイボによって殺害されてしまう。

まあ、一番悪いのはハイボなのだが、自分の本名も定かでないという彼自身、親の愛情を知らずに育った貧困の犠牲者であり、自分より弱い者から盗まなければ生きていけなかったという事情も分かりやすく描かれている。

そんな子供の貧困を描いているという点では、「靴みがき(1946年)」をはじめとするイタリアン・ネオ・レアリスモの作品に相通じるところがあるのだが、殺人を目撃した日の晩にペドロが見る悪夢の描写はルイス・ブニュエルならではのものであり、また、ペドロが自分を撮っているカメラのレンズに向かって生卵を投げつけるというアイデアもなかなか面白い。

ということで、ブニュエル作品としては珍しく、ストレートな社会批判を含んだ作品となっているのだが、重いテーマにもかかわらず、晩年の作品に比べると生命力に満ち溢れており、チラッと登場するエロティシズムもより直截的。まあ、舞台がメキシコだからというのもあるだろうが、やはり年齢的な要因(=公開当時50歳の男盛り)の方が大きいように思われます。