白い恐怖

1945年作品
監督 アルフレッド・ヒッチコック 出演 イングリッド・バーグマングレゴリー・ペック
(あらすじ)
精神病院に勤務するコンスタンス(イングリッド・バーグマン)は有能で研究熱心な精神分析医。新たに所長として着任してきたエドワード博士(グレゴリー・ペック)と出会い、二人は急速に恋に落ちるが、そんなある日、彼女は彼の筆跡が病院にあったエドワード博士の著作本のサインと全く異なることに気付いてしまう….


ヒッチコックが初めてイングリッド・バーグマンを主演に起用した作品。

その後、本物のエドワード博士が行方不明になっていることが判明し、グレゴリー・ペック扮する謎の男に博士殺害の疑惑がかけられる、っていうところまでの展開はスピーディでとても面白い。確か前に一度見た筈なのだが、(有難いことに?)内容はほとんど覚えていないため、まるで初見のような気持でワクワクしながら見続けてしまう。

しかし、比較的早い時点でグレゴリー・ペックの性格の良さが前面に出てしまうせいで、“ひょっとして彼が殺人鬼?”というサスペンスはあまり盛り上がらず、その後は、彼の無実を信じるコンスタンスが“白地に描かれた線”を怖がるという彼の異常な行動を手掛かりに、彼の心の奥底に秘められた真実を突き止めようとする、っていう謎解きの方がメインになっている。

まあ、サルヴァドール・ダリの協力を得たという夢のシーンなんかを取り入れたストーリーは決してつまらなくはないのだが、やはり美人を怖がらせるっていうところがヒッチコック映画の大きな魅力の一つであり、俺としては、ヒロインは助ける側ではなく、助けられる側にいる方が好ましい。

また、本作では精神分析に関わる説明をする必要からか、ちょっとセリフによる説明に頼り過ぎているような印象が強く、「汚名(1946年)」における見事なまでに簡潔でスマートな演出方法を鑑賞した後では、見ていて少々のまどろっこしさを感じてしまうのも止むを得ないところ。

ということで、本作が公開されたのは「白昼の決闘(1946年)」の前年であり、今までに俺が見たグレゴリー・ペックの主演作の中では最も初期の作品になる訳であるが、悪人ができないという彼の致命的な欠点が早くも顔を覗かせており、そんなところがなんとも興味深い。次は、彼が主演したもう一本のヒッチコック作品「パラダイン夫人の恋(1947年)」を恐る恐る見てみることにします。