中共脱出

1955年作品
監督 ウィリアム・A.ウェルマン 出演 ジョン・ウェインローレン・バコール
(あらすじ)
中国人民解放軍によって拘留されていた米国人のワイルダー船長(ジョン・ウェイン)は、何者かの手によって助け出され、チクシャンという村に案内される。出迎えた村長は、全村民を香港に脱出させるという大胆な計画を彼に打ち明け、協力を求めるが、それは、奪ったフェリー船で“血の小路”と呼ばれる危険な海峡を超えるという無謀な内容であった….


ウィリアム・A.ウェルマンジョン・ウェインと組んで発表した作品。

中国共産党によって中華人民共和国が建国されたのが1949年。本作は、それに引き続く混乱期において、当時英国領であった香港に集団で亡命を図った人々の姿(=実話?)を描いている訳だが、そこはハリウッド映画ということで、ストーリーは米国人であるワイルダー船長をヒーローにしたアクション映画になっている。

当然、一般人の中国人が大勢登場し、彼等は比較的(=多くの西部劇に出てくるインディアンに比べれば)人間らしく描かれている訳だが、まあ、せいぜい“善良なる弱者”といった位置づけであり、彼等に対する敬意みたいなものはほとんど感じられない。また、人民解放軍に至っては、残虐かつ愚鈍と極めて差別的に描かれている。

さらに、後半、中国人の村民を前にして、ワイルダー船長が“今後の中国のあり方”に関して得々と説教を垂れるという珍シーンもしっかりと収められており、うーん、これでは反共プロパガンダ映画と言われてしまっても仕方ないところだろう。

主演のジョン・ウェインは、「捜索者(1956年)」とほぼ同じ頃の作品ということで貫禄は十分なんだけど、それに見合った敵役が出てこないのでやや空回り的な印象が残る。彼の扮するワイルダー船長に独り言を言う癖があるという設定はちょっと面白いが、案外、状況説明に困った脚本家が苦し紛れに思いついたアイデアなのかもしれない。

相手役のローレン・バコールは、チクシャン村で働いている外国人医師の娘という設定であるが、ストーリーの展開上、ほとんど必要性のないという酷い役どころであり、本当にジョン・ウェインの“相手役”でしかない。本人としては、「アフリカの女王(1951年)」におけるキャサリン・ヘップバーンのようなポジションを期待していたのかも知れないのにねえ。

ということで、リベラルな印象のあったウィリアム・A.ウェルマンの作品としては予想外の内容であり、彼が本作をどのような気持ちで監督したのか、ちょっと興味のあるところ。IMDBによると、彼は、本作の後、「壮烈! 外人部隊(1958年)」を最後に62歳の若さ(=亡くなったのは79歳)で映画界を引退しているようであり、何かこのあたりとも関係があったのかも知れないなあ。