カルメン故郷に帰る

1951年作品
監督 木下恵介 出演 高峰秀子佐野周二
(あらすじ)
浅間山の麓で育ったおきん(高峰秀子)は、家出して行った先の東京で“芸術家”のリリイ・カルメンとして大成功。そんな彼女が友人を連れて久しぶりに故郷に帰って来たため村の人々は大歓迎で迎えるが、幼馴染の田口春雄(佐野周二)は彼女の東京での活動内容を聞き、思わず眉をひそめる….


日本初のカラー映画として製作された作品。

おきんは、子供の頃、牛に頭を蹴られたことが原因(?)で頭が弱く、今は東京でストリッパーをやっているという設定。本人は周囲からの“ストリップは芸術”という言葉を信じきっており、そんな彼女の引き起こすドタバタ劇を中心にストーリーが展開する。

そんな訳で、内容は他愛のないコメディなんだけど、見終わった後の印象はいまひとつスッキリしない。おそらく、その最大の理由はおきんが最後まで救われることなく、勘違いしたままでお話しが終わってしまうせいであり、せめて彼女の存在がトリックスターとして機能していればもうちょっと面白くなったと思うんだけど、残念ながらそっちのほうも中途半端。

実は、この作品には、戦争で失明してしまった田口の唯一の心の慰めである愛用のオルガンが借金のカタとして悪徳業者に取り上げられてしまうというエピソードが含まれていて、そのオルガンがめでたく田口のもとに返還されるというシーンがラストになっている訳だけど、おきんはこのエピソードにも直接関与していないんだよなあ。

さて、本作が木下作品初出演になる高峰秀子は、(当時の)普通の女優さんならかなり抵抗があると思われる役どころを屈託なく元気一杯に演じており、彼女のこういうところが多くの名監督に重宝された所以なのだろう。事実、彼女はこの3年後に名作「二十四の瞳(1954年)」に主演しており、ここでの苦労は決して無駄にはならなかった訳である。

また、田口のオルガンを取り返すのに主要な役割を果たす小学校の校長に笠智衆が扮している訳であるが、本作における彼の演技は、その後のコメディアンとしての彼の方向性を決定づけたと言って良い程の大熱演。以前読んだ「小津安二郎先生の思い出」でも本作での演技に言及していたが、きっと彼にとっても思い入れの深い作品だったのだろう。

ということで、屋内のシーンがほとんど無いということもあって、本邦初のカラー映画を成功させることを最優先事項として製作されたような印象もあるが、笠智衆の演技の変遷を知る上では極めて重要な作品であり、彼が悪徳業者を投げ飛ばすシーンはとても愉快でした。